・・・そして、それを見のがさず、むしろその一点に人間的哀感を傾注してテーマを展開させてゆく作者の心を支配しているのは、今日で云われる反封建の意識でもないし、階級性とよばれるものでもない。こういうテーマの展開の中には「貧しき人々の群」の余韻がある。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・リアートのピオニイルという最も革命的組織的なものにふれつつ、それを最も非組織的に非現実的に描くことによってプロレタリアートの力を背後に押しかくし、亀の子、子供、子供ずきの孤独な移民チャーリーと市民的な哀感をかなでている。 作者は「移民」・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・以下三十篇ちかい歴史的素材の小説も、やはり歴史小説でないことでは芥川の扱いかたに似ているが、芥川龍之介が知的懐疑、芸術至上の精神、美感、人生的哀感の表現として過去に題材を求めたのとは異って、菊池寛は、自身が日常に感じる生活への判断をテーマと・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ぼんやりした哀感が残ります。その場合そういう心理が文学的にどういう反応を示すかというと、やっぱり文学というものは闘争を描き、同じような生活環境を描いている労働の文学よりも何かもっと違ったところに文学の本質はあるのじゃないかと、逆にブルジョア・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・ 当時の婦人達は、浄瑠璃として又は芝居として、近松の描き出す哀感に満ちた世界を、自分達の感情の奥底にある響きとして聞きもし、見もした。婦人はこのようにして男子の作家によって描かれ、そして謳われた。しかし、当時の婦人の文化的な能力は、日常・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫