・・・これだけの品数を一度に容れ得る「鍋」を自分は持っているだろうか。鍋はあるとした上でも、これだけのものを沸騰させ煮つめるだけの「燃料」を自分は貯えてあるだろうか。 この点に考え及ぶと私は少し心細くなる。 厄年の関を過ぎた私は立止っ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・この辺に、こんなどっさり品数を並べた魚やは、珍しい。好奇心に誘われて、人垣の間から首をのぞけてみたらば、鮪百匁五十五円と書いた札が先ず目についた。そこでも、たかっている人のどっさりの中で、実際そのとき買っているという女も男も見当らなかった。・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ 黒っぽい木綿の着物に白い帯をした彼が、特別にでも自分だけは粗末な品数の少ない食卓にしてもらって、子供達の話や母の慰めを満足したらしく聞きながら、一口ずつ噛みしめて食べて居た様子がありありと目に浮ぶ程である。 或る日いつもの様に・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫