・・・しかれども洒堂のこれらの句は元禄の俳句中に一種の異彩を放つのみならず、その品格よりいうも鳩吹、刈株の句のごときは決して芭蕉の下にあらず。芭蕉がこの特異のところを賞揚せずして、かえってこれを排斥せんとしたるを見れば、彼はその複雑的美を解せざり・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ その人の品格を下げると同時に、「なあんの事だ とその話全体をけ落して見させてしまう。 気をつけるべき事である。 宮本百合子 「雨滴」
・・・ところがこの老博士は今年八十四五歳であり、君子であり品格をもった国宝的建築家でありますが、現実の社会事情からは些か霞の奥に在る。ために国男はじめ所員一同具体的な生活的な面で安心して居られず、という有様です。せちがらさを、この老大家は道徳的見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・それも真白な髪を小さい丸髷に結っていて、爺いさんに負けぬように品格が好い。それまでは久右衛門方の勝手から膳を運んでいたのに、婆あさんが来て、爺いさんと自分との食べる物を、子供がまま事をするような工合に拵えることになった。 この翁媼二人の・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・従って味の高下や品格などについては決して妥協を許さない明確な標準があったように思われる。外見の柔らかさにかかわらず首っ骨の硬い人であったのはそのゆえであろう。 何かのおりに、どうして京都大学を早くやめられたか、と先生に質問したことがある・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫