・・・ 事務室の中には、いろんな品物がうずたかく積んであった。前の晩、これを買う時に小野君が、口をきわめて、その効用を保証した亀の子だわしもある。味噌漉の代理が勤まるというなんとか笊もある。羊羹のミイラのような洗たくせっけんもある。草ぼうきも・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・家の者のいない隙に、手早く置手紙と形見の品物を取りまとめて机の引出しにしまった。クララの眼にはあとからあとから涙が湧き流れた。眼に触れるものは何から何までなつかしまれた。 一人の婢女を連れてクララは家を出た。コルソの通りには織るように人・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ 品物といえば釘の折でも、屑屋へ売るのに欲い処。……返事を出す端書が買えないんですから、配達をさせるなぞは思いもよらず……急いで取りに行く。この使の小僧ですが、二日ばかりというもの、かたまったものは、漬菜の切れはし、黒豆一粒入っていませ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・の中にも真言宗には、秘密の法だの、九字を切るだのと申しまして、不思議なことをするのでありますが、もっともこの宗門の出家方は、始めから寒垢離、断食など種々な方法で法を修するのでございまして、向うに目指す品物を置いて、これに向って呪文を唱え、印・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・そして、さっそく明日、この品物をその子供にお返しなさいよ。」と、かたくいいきかされたのであります。 明くる日正雄さんは、また海辺へいきますと、もう自分より先にその子供がきていまして、昨日のよりさらに美しいさんごや、紫水晶や、めのうなどを・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・おばあさんは、あわてて箱の中へ残りの品物を入れています。あや子は、おばあさんが気の毒になって、自分の急いで帰らなければならぬことも忘れて、おばあさんにてつだってやりました。おばあさんはたいそう喜びました。 やがてそれらの箱を小さな車に積・・・ 小川未明 「海ほおずき」
・・・今夜何か品物でも預かっとこう。」「品物といって――何しろ着のみ着のままで……」「さっきお前さんが持って上った日和下駄、あれは桐だね。鼻緒は皮か何だね。」「皮でしょう。」「お見せ。」 寝床の裾の方の壁ぎわに置いてあったのを・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・切符を買う元手もなければ売る品物もない。靴磨きをするといっても元手も伝手も気力もない。ああもう駄目だ、餓死を待とうと、黄昏れて行く西の空をながめた途端……。七「……僕のことを想いだして、訪ねて来たわけだな」「へえ」と横堀・・・ 織田作之助 「世相」
・・・安全剃刀、レザー、ナイフ、ジャッキその他理髪に関係ある品物を商っているのだから、やはり理髪店相手の化粧品を商っていた柳吉には、いちばん適しているだろうと骨折ってくれた、その手前もあった。門口の狭い割に馬鹿に奥行のある細長い店だから昼間なぞ日・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そしてさっそくその品物を見せるため二階へ案内した。 周文、崋山、蕭伯、直入、木庵、蹄斎、雅邦、寛畝、玉章、熊沢蕃山の手紙を仕立てたもの、団十郎の書といったものまであった。都合十七点あった。表装もみごとなものばかしであった。惣治は一本一本・・・ 葛西善蔵 「贋物」
出典:青空文庫