・・・難有いことには僕に馬鈴薯の品質が無かったのだ。其処で夏も過ぎて楽しみにしていた『冬』という例の奴が漸次近づいて来た、その露払が秋、第一秋からして思ったよりか感心しなかったのサ、森とした林の上をパラパラと時雨て来る、日の光が何となく薄いような・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・それあおまえも、品質が好いからって二合ばかりずつのお酒をその度々に釜川から一里もあるこの釜和原まで買いに遣すような酷い叔母様に使われて、そうして釣竿で打たれるなんて目に逢うのだから、辛いことも辛いだろうし口惜しいことも口惜しいだろうが、先日・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・の子孫だけが繁殖すれば知恵の動物としての人間の品質はいやでもだんだん高まって行く一方であろう。こういう意味で災難は優良種を選択する試験のメンタルテストであるかもしれない。そうだとすると逆に災難をなくすればなくするほど人間の頭の働きは平均して・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・彼らは己れの容貌と体格とに調和すべき日常の衣服の品質縞柄さえ、満足には撰択し得ないではないか。或者は代言人の玄関番の如く、或者は歯医者の零落の如く、或者は非番巡査の如く、また或者は浪花節語りの如く、壮士役者の馬の足の如く、その外見は千差万様・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・そのために製造したバタの品質が低下する。上ナザロフ村にもう一つバタ工場がある。そこの建物はひどい有様だ。扉はこわれている。寒くて働けぬ。この間支配人はクラスノヤルスク村へ牛乳買上決算に出かけた。そこで彼は三昼夜べろべろにのんだくれ、・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・作家団体に属する者は、五ルーブリの切符を半額で買って、そこで品質のいい食事が出来るのであった。 わたしの坐ったテーブルに、二人中年の男がいる。やっぱり切符組だ。ふとその一人と口をきくようになった。 彼は、日本のプロレタリア文学運動の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・只廉いもの買いではなく、価と品質との正当なものを得ようとします。従って、店々の競争も、そこを狙って行われる。一般の買物日と定った日に纏めれば、多くの場合、場所により懸け値を少くよい物品を得られると云う訳なのです。 夜は、時によれば日曜日・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・鼈甲、品質はよいのだろうが、図案もう一息。特に飾ピンなど。寄合町迄行って帰りに驟雨に会った。 第二日 多忙な永山氏を煩すことだから、大奮発で七時起床。短時間の滞在だから永山氏に大体観るべきところの教示を受けたい・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・総て朱塗だ、新に余り品質のよくない塗料で修繕した箇処もある。歴史的に古く、特別保護建造物となっているのだが、私共は大して心を打たれなかった。後に迫って山を負っているため、陰湿だ。それに昔の支那――明人の建築には思いがけず木材など細いのが使用・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・そういう選択、判断がなかったらアメリカの貯蔵食品の今日の発達と品質の向上はあり得なかっただろう。 その科学的に分析され綜合的に研究され発達しつくしたあらゆる部門の広告が、日本のように今でさえまだ半封建的な幼稚な資本主義国にもちこまれたと・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫