・・・またその掘出物を安く買って高く売り、その間に利を得る者があれば、それは即ち営業税を払っている商売人でなければならぬ。商売人は年期を入れ資本を入れ、海千山千の苦労を積んでいるのである。毎日真剣勝負をするような気になって、良い物、悪い物、二番手・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・これには商売人の方が九分であろう。雨の後などは随分やっているものだ。また春の未明には白魚すくいをやるものがある。これには商売人も素人もある。 マア、夜間通船の目的でなくて隅田川へ出て働いて居るのは大抵こんなもので、勿論種々の船は潮の加減・・・ 幸田露伴 「夜の隅田川」
・・・と言ってはいるけれども、しかし、それは汽車の中では売りたくないというだけの事で、やはり商売人に違いないのでした。自分の家に持ち運んで、それを誰か特定の人にゆずるのかどうか、そこまではわかりませんが、とにかく「売り物」には違いないようでした。・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・この所長は、とても腰の低いひとで、一介の書生に過ぎぬ私を、それこそ下にも置かず、もてなしてくれました。商売人のようないや味もなく、まじめな、礼儀正しい人でした。本当に、感心な人でした。撮影所の中庭で、幹部の俳優たちと記念撮影をしたのですが、・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・ それにしても、ラジオを商売にしている商売人でありながら、それぞれの機械に固有な感度というものを認めないのが不思議に思われる。正宗を砥ぎにやったのをなまくらにして返して、これでも切れると云って平気でいるのは、少しおかしいと云わなければな・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・フランスやドイツの人民は、今日の壊滅におちいった心理的な原因として、二つの国の間にある、伝統的なさまざまの偏見を、戦争商売人に利用されたのだった。日本の人民が明治二十七八年の戦争以来、敗けない日本軍の幻想と偏見にだまされつづけて、国内のファ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・と云う商売人になっただけでは足りない、人間として、凡人以上の感受性と洞察が要求される。頭がいる。強い心がいる。 種々な素人劇団が起るのは、「芝居道」以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 丁度、その頃赤門の近くに、貸家を世話する商売人があったので、そこへ行って頼んだ。三十円位で、ガスと水道のある、なるたけ本郷区内という注文をしたのである。 考えて見ると、それから一年位経つか経たないうちに、外国語学校教授で、英国官憲・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・さあ、と云って、商売人にまかせたきりでは、誰でも不満を覚えましょう。自分で種々考えている。相談をする。プランを種々に引いて見る。そして、やっと出来上るから、仮令、一つの石を自分で運んだのではなくても、「我が家」と云う心的の繋が出来るのです。・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫