・・・私のこんな気持ちに対する反証として、よくロシアの啓蒙運動が例を引かれるようだ。ロシアの民衆が無智の惰眠をむさぼっていたころに、いわゆる、ブルジョアの知識階級の青年男女が、あらゆる困難を排して、民衆の蒙を啓くにつとめた。これが大事な胚子となっ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・大衆を啓蒙すべきか、二、三の法種を鉗鎚すべきか、支那の飢饉に義捐すべきか、愛児の靴を買うべきかはアプリオリに選択できることではない。個々の価値、個々の善を見ずして、あらゆる場合に正しき選択をなし得るような一般的心術そのものをきめようとする倫・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・偉大にして理想主義のたましい燃ゆる青年は、必ずしも舗道散歩のパートナーとして恰好でなくても、真に将来を託するに足るというようなことを啓蒙するのだ。貧しい大学生などよりは、少し年はふけていても、社会的地歩を占めた紳士のほうがいいなどといった考・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・しかし今日の、人間の文化と禍福とがますます密接に政治に依属しつつある時代において、政治の根本精神を正し、その理想を標幟せしむる啓蒙運動に、文化指導の任務を自覚するわれわれが関わりを持たずにいられないのは当然なことである。それは日蓮の時代より・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 軍隊内における組織的活動、軍国主義と資本主義のためにする軍隊の使用に反対する啓蒙的な宣伝は、兵営に這入ろうとする革命的な青年たちのやらねばならぬ仕事である。 ブルジョア軍隊を打倒することなくしては、プロレタリア革命は完全に勝利に到・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・慾独占の汚い地獄絵、はっきり不正の心ゆえ、きょうよりのち、私、一粒の真珠をもおろそかに与えず、豚さん、これは真珠だよ、石ころや屋根の瓦とは違うのだよ、と懇切ていねい、理解させずば止まぬ工合いの、けちな啓蒙、指導の態度、もとより苦しき茨の路、・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ しかし、君たちは何やら「啓蒙家」みたいな口調で、すまして民衆に説いている。 洋行。 案外、そんなところに、君たちと民衆とのだまし合いが成立しているのではないか。まさか、と言うこと勿れ。民衆は奇態に、その洋行というものに、おびえ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・に依る民衆の幸福の可能性を懐疑し、まず民衆の啓蒙に着眼しました。またかつて私たちの敬愛の的であった田舎親爺の大政治家レニンも、常に後輩に対し、「勉強せよ、勉強せよ、そして勉強せよ」と教えていた筈であります。教養の無いところに、真の幸福は絶対・・・ 太宰治 「返事」
・・・識者の啓蒙を待つばかりである。 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・「大衆性」「啓蒙的役割」の理解の問題がひそめられているし、各作家の特質についての具体的観察の問題があり、創造活動のうちに包括される啓蒙のための文筆活動の評価の問題もある。『戦旗』が一九二九年ごろ、片岡鉄兵の「アジ太・プロ吉世界漫遊記」を・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
出典:青空文庫