・・・本当の恋を囁いている間に自身の芸術家の虫が、そろそろ頭をもたげて来て、次第にその虫の喜びのほうが増大して、満場の喝采が眼のまえにちらつき、はては、愛慾も興覚めた、という解釈も成立し得ると思います。まことに芸術家の、表現に対する貪婪、虚栄、喝・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・んのこと、飛島さんのこと、檀君のこと、山岸外史の愛情、順々にお知らせしようつもりでございましたが、私の話の長びくほど、後に控えた深刻力作氏のお邪魔になるだけのことゆえ、どこで切っても関わぬ物語、かりに喝采と標題をうって、ひとり、おのれの心境・・・ 太宰治 「喝采」
・・・戦争を知らぬ人が戦争を語り、そうしてそれが内地でばかな喝采を受けているので、戦争を、ちゃんと知っている兵隊さんたちまで、そのスタイルの模倣をしている。戦争を知らぬ人は、戦争を書くな。要らないおせっかいは、やめろ。かえって邪魔になるだけではな・・・ 太宰治 「鴎」
・・・若いころには、相応に名も出て、二、三の作品はずいぶん喝采されたこともある。いや、三十七歳の今日、こうしてつまらぬ雑誌社の社員になって、毎日毎日通っていって、つまらぬ雑誌の校正までして、平凡に文壇の地平線以下に沈没してしまおうとはみずからも思・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ 最後にデンプシーの審判で勝負が決まった時介添に助けられて場の中央に出て片手を高く差上げ見物の喝采に答えた時、何だか介添人の力でやっと体と腕を支えているような気がした。これに反してマックの方は判定を聞くと同時にぽんと一つ蜻蛉返りをして自・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・ 六万の観客中には、シネマ俳優としてのベーアの才能と彼のいろいろなセンチメンタル・アドヴェンチュアとを賛美する一万の婦人がいてはなやかな喝采を送ったそうである。 友人たちとこの映画のうわさをしていたとき、居合わせたK君は、坊間所伝の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ それだのに、純粋な線条の踊りは一般観客にはさっぱり評価されないようである一方でレヴューのほうは大衆の喝采を博するのが通例であるらしい。ここに映画製作者の前に提出された一つの大きな問題があると思われる。 あまりに抽象的で特殊な少数の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 学芸大会では拍手喝采だった。各小学校の校長先生たちや、郡長さん始め、県の役人なども沢山いるところで、私たちは非常に面目をほどこしてから、受持の先生に引率されて帰ってきたが、それから林と私はますます仲良しになった。 あるとき林の家へ・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・その頃オペラ館の舞台で観客から喝采せられていた人たちの大半は震災後に東京へ出て来て成功した地方の人のみであった。しかしこの時代も今はまた忽ちにしてむかしとなったのである。平和の克復したこの後の時代にジャズ模倣の名手として迎えらるべき芸人の花・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・この暑いのにそう長くやっては何だか脳貧血でも起しそうで危険ですからできるだけ縮めてさっさと片づけますから、その間は帰らずに、暑くても我慢をして、終った時に拍手喝采をして、そうしてめでたく閉会をして下さい。 私は先年堺へ来たことがあります・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫