・・・すると、もう男はまるで喧嘩腰になった。「あんたも迷信や思いはりまっか、そら、そうでっしゃろ。なんせ、あんたは学がおまっさかいな。しかし、僕かて石油がなんぜ肺にきくかちゅうことの科学的根拠ぐらいは知ってまっせ。と、いうのは外やおまへん。ろ・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・母は三言目には喧嘩腰、妻は罵倒されて蒼くなって小さくなる。女でもこれほど異うものかと怪しまれる位。 母者ひとの御入来。 其処は端近先ず先ずこれへとも何とも言わぬ中に母はつかつかと上って長火鉢の向へむずとばかり、「手紙は届いたかね・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・が二人の間には、膝から下を切断し、おまけに腹膜炎で海豚のように腹がふくれている患者が担架で運んで来られ、看護卒がそれを橇へ移すのに声を喧嘩腰にしていた。栗本は田口がやって来そうにないのを見て、橇からおりて雪の中の馬の頭のさきを廻って行った。・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・そのために、女の人の文学がそれほど数が殖えた時代でさえも、女の人が真面目な婦人の社会的な問題について闘う態度、喧嘩腰ではないにしろ、真面目にその人がそれを求めているということが強く強く主張されるように理解されるように心を打つ文学、そういう風・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・それだのにお前はまるで喧嘩腰で来る。喧嘩だってやたらむきになったんじゃ駄目だ。一度しくじってもいい。五度しくじってもいい。七度でもいい――それが何だ! 止すさ。引込むだけのことさ。そして、冷めきってからまたやるんだ! それが遊びだ」 ゴ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫