・・・そのためにレディとの交際が出来難く、触れ合う女性は喫茶ガールや、ダンサーや、すべて水稼業に近い雰囲気のものになるということは嘆くべきことだ。もっと男女選択のチャンスの広くなるような、美しい賢明な男女交際の機関をこしらえてやることは社会的義務・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・それをほめる人があれば笑う人があり怒る人があり嘆く人がある。ギリシャの昔から日本の現代まで、いろいろの哲学の共存することだけはちっとも変りがないものと見える。 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・向島の百花園に紫や女郎花に交って西洋種の草花の植えられたのを、そのころに見て嘆く人のはなしを聞いたことがあった。 銀座通の繁華が京橋際から年と共に新橋辺に移り、遂に市中第一の賑いを誇るようになったのも明治の末、大正の初からである。ブラヂ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・かく観ずればこの女の運命もあながちに嘆くべきにあらぬを、シャロットの女は何に心を躁がして窓の外なる下界を見んとする。 鏡の長さは五尺に足らぬ。黒鉄の黒きを磨いて本来の白きに帰すマーリンの術になるとか。魔法に名を得し彼のいう。――鏡の表に・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・これは僕にとって、嘆くべきことか祝福すべきことか解らない。 その上にまた、最近家庭の事情も変化した。僕は数年前に妻と離別し、同時にまた父を失ってしまった。後には子供と母とが残ってるが、とにかく僕の生活は、昔に比して甚だ自由で伸々して来た・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ウペシュがそれを知って悲しみ嘆く。「若い観衆の劇場」教育部がそこでいおうとしている迷信の力と科学の力との対照は、うまい演劇的表現で、大人をもひきつける面白さである。 ――これは、割合成功したと我々も思っています。だが、往々大人は子供の心・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・今日、婦人のモラルの失墜を嘆くならば、その根本の原因をなした此等の戦争犯罪支配者こそ、先ずきびしく人民の批判を受けるべきである。 二 婦人の生活から道義がすたれたというとき、とかくその焦点は女性の性的問題に・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・と、そこへ偶然まぎれ込み、光りの破片となって落ちこんで来たのは「結構さん」のような知識人のタイプ、「おお、他人の良心で生きるものではない」と嘆く一種の敗残者であったということ。しかも、同じ貧窮と汚穢の中に朝から晩までころがされながら、尚民衆・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・と、そこへ偶然まぎれ込み光の破片となって落ちこんで来たのは「結構さん」のような知識人のタイプ、「おお、他人の良心で生きるものではない」と嘆く一種の敗残者であったということ。しかも、同じ貧窮と汚穢の中に朝から晩までころがされながら、尚民衆は「・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・私は自分の貧しさに嘆く人々が一日も早く精神の王国の内に、偉大なる英雄たちの築いたあの王国の内に、限りなき命の泉を掬み、強い力と勇気とをもってふるい立つ日の来たらんことを祈っています。八 もう夜がふけました。沈んだ心持ちで書き・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫