・・・ミス コーフィールドに電話で歎願して、パリセードに行く。 自分の膝に頭を横えて、静に涙をこぼす彼の上に風が吹く。 二十二日 鶴見、河井、其他星野等と食事に招れる。 二十四日 雪降り。野中夫人に若松によばれる。お・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・のこのような内心のむき出されている恍惚の顔つき肩つき、「歎願者」の老婆の、あの哀訴にみちた瞳の光りが描けたろう。 ケーテのスケッチに充ちている偽りなさと生活の香の色の濃厚さは、私たちにゴーリキイの「幼年時代」「私の大学」「どん底」などの・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ある日甚五郎の従兄佐橋源太夫が浜松の館に出頭して嘆願した。それは遠くもない田舎に、甚五郎が隠れているのが知れたので、助命を願いに出たのである。源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺を撃つとき蜂谷と賭をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・そこでどうにかして一度御亭主に逢わせて下さいと云って、わたくしは歎願しましたね。しかしどうしてもあなたは聴きませんでしたね。するとある日の事、たしか午後にわたくしの所にいらっしゃった時でした。あなたは手紙をお落しなすったのです。わたくしはお・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・すると、急にそのとき腹痛が起り、どうしても今日だけは赦して貰いたいと栖方は歎願した。軍では時日を変更することは出来ない。そこで、その日は栖方を除いたものだけで試験飛行を実行した。見ていると、大空から急降下爆撃で垂直に下って来た新飛行機は、栖・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫