・・・これはお松さんと云って、器量は到底お君さんの敵ではない。まず白麺麭と黒麺麭ほどの相違がある。だから一つカッフェに勤めていても、お君さんとお松さんとでは、祝儀の収入が非常に違う。お松さんは勿論、この収入の差に平かなるを得ない。その不平が高じた・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・――「その植木屋の娘と云うのは器量も善いし、気立も善いし、――それはわたしに優しくしてくれるのです」「いくつ?」「ことしで十八です」 それは彼には父らしい愛であるかも知れなかった。しかし僕は彼の目の中に情熱を感じずにはいられ・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ただ綺麗ではありませんが、――器量などはどうでもかまわないのでしょう? 使 (愛想悪い方が好いのです。同情しずにすみますから。 小町 ではあの人に行って貰って下さい。あの人はこの世にいるよりも、地獄に住みたいと云っています。誰も逢う・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・ しかしこれは、工人の器量を試みようとして、棚の壇に飾った仏体に対して試に聞いたのではない。もうこの時は、樹島は既に摩耶夫人の像を依頼したあとだったのである。 一山に寺々を構えた、その一谷を町口へ出はずれの窮路、陋巷といった細小路で・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ そう云って莞爾笑うのさ、器量がえいというではないけど、色が白くて顔がふっくりしてるのが朝明りにほんのりしてると、ほんとに可愛い娘であった。 お前とこのとッつぁんも、何か少し加減が悪いような話だがもうえいのかいて、聞くと、おやじが永・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・ 友人はその跡を見送って、「あいつの云う通り、僕は厭世気違いやも知れんけど、僕のは女房の器量がようて、子供がかしこうて、金がたんとあって、寝ておられさえすれば直る気違いや。弾丸の雨にさらされとる気違いは、たとえ一時の状態とは云うても・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・けれど一目その娘を見た人は、みんなびっくりするような美しい器量でありましたから、中にはどうかしてその娘を見ようと思って、蝋燭を買いに来た者もありました。 お爺さんや、お婆さんは、「うちの娘は、内気で恥かしがりやだから、人様の前には出・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・けれど、一目その娘を見た人は、みんなびっくりするような美しい器量でありましたから、中にはどうかしてその娘を見たいと思って、ろうそくを買いにきたものもありました。 おじいさんや、おばあさんは、「うちの娘は、内気で恥ずかしがりやだから、・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・「私は、あんな器量よしの娘を見たことがない。」と、他の年をとった、荷物をかついだ旅の女らしい人がいいました。「あれほどの器量なら、こんなことをしていなくてもよさそうなものだ。あんな美しい娘なら、だれでももらい手があるのに。」と、脊の・・・ 小川未明 「港に着いた黒んぼ」
・・・姉の喜美子はどちらかといえば醜い器量に生れ、妹の道子は生れつき美しかった。妹の道子が女学校を卒業すると、喜美子は、「姉ちゃん、私ちょっとも女専みたいな上の学校、行きたいことあれへん。私かて働くわ。」という道子を無理矢理東京の女子専門学校の寄・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
出典:青空文庫