・・・ 姉は声も立てずにたおれ、血は噴出して鶴の顔にかかる。部屋の隅にあった子供のおしめで顔を拭き、荒い呼吸をしながら下の部屋へ行き、店の売上げを入れてある手文庫から数千円わしづかみにしてジャンパーのポケットにねじ込み、店にはその時お客が二、・・・ 太宰治 「犯人」
・・・数千の火の玉小僧が列をなして畳屋の屋根のうえで舞い狂い、火の粉が松の花粉のように噴出してはひろがりひろがっては四方の空に遠く飛散した。ときたま黒煙が海坊主のようにのっそりあらわれ屋根全体をおおいかくした。降りしきる牡丹雪は焔にいろどられ、い・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・千ヶ滝から峰の茶屋への九十九折の坂道の両脇の崖を見ると、上から下まで全部が浅間から噴出した小粒な軽石の堆積であるが、上端から約一メートルくらい下に、薄い黒土の層があって、その中に樹の根や草の根の枯れ朽ちたのが散在している。事によると、昔のあ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・そして「蒸気の噴出が増したから見ろ」と言うのだが、私にはいっこうなんの変わりもないように思われた。すると彼はそことはだいぶ離れた後方の火口壁のところどころに立ち上る蒸気をさして「あのとおりだ」という。しかし松明を振る前にはそれが出ていなかっ・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・また大地震で家がつぶれ、道路が裂けて水道が噴出したり、切断した電線が盛んにショートしてスパークするという見ていて非常に危険な光景を映し出して、その中で電話工夫を活躍させている。それからまた犯人と目星をつけた女の居所を捜すのに電話番号簿を片端・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ まわりに落ち散らばっている火山の噴出物にも実にいろいろな種類のものがある。多稜形をした外面が黒く緻密な岩はだを示して、それに深い亀裂の入った麺麭殻型の火山弾もある。赤熱した岩片が落下して表面は急激に冷えるが内部は急には冷えない、それが・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・言わば高圧釜の安全弁のように適当な瞬間に涙腺の分泌物を噴出して何かの危険を防止するのではないか、そうでないとどうも涙の科学的意義がのみ込めない。 ある通俗な書物によると、甲状腺の活動が旺盛な時期には性的刺激に対する感度が高まると同時にあ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・最初の爆発にはあんなに多量の水蒸気を噴出したのが、一時間半後にはもうあまり水蒸気を含まない硫煙のようなものを噴出しているという事実が自分にはひどく不思議に思われた。この事実から考えると最初に出るあの多量の水蒸気は主として火口の表層に含まれて・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・その外に煙突の煙からは煤に混じて金属の微粒も出る、火山の噴出物もまた色々の塵を供給する。その上に地球以外から飛来する隕石の粉のようなものが、いわゆる宇宙塵として浮游している。 このような塵に太陽から来る光波が当れば、波のエネルギーの一部・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ 島が生まれるという記事なども、地球物理学的に解釈すると、海底火山の噴出、あるいは地震による海底の隆起によって海中に島が現われあるいは暗礁が露出する現象、あるいはまた河口における三角州の出現などを連想させるものがある。 なかんずく速・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
出典:青空文庫