・・・ ナポリを見物に行ったついでに、ほど遠からぬポツオリの旧火口とその中にある噴気口を見に行った。電車をおりてベデカをたよりに尋ねて行こうとすると、すぐに一人の案内者が追いすがって来てしきりにすすめる。まだ三十にならないかと思われるあま・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・云わば遠からず爆発しようとする火山の活動のエネルギーがわずかに小噴気口の噴煙や微弱な局部地震となって現われていたようなものであった。それにしてもそのために俳句や漢詩の形式が選ばれたという事は勿論偶然ではなかったに相違ない。先生の自然観人世観・・・ 寺田寅彦 「夏目先生の俳句と漢詩」
・・・さらにこの活気に柔らかみを添えるのは、鉄をたたく音の中に交じってザブ/\ザブ/\と水のあふれ出すような音と、噴気孔から蒸気の吹き出すような、もちろんかすかであるが底に強い力と熱とのこもった音が始まる。このようないろいろの騒がしい音はしばらく・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
出典:青空文庫