・・・と思うとその元禄女の上には、北村四海君の彫刻の女が御隣に控えたベエトオフェンへ滴るごとき秋波を送っている。但しこのベエトオフェンは、ただお君さんがベエトオフェンだと思っているだけで、実は亜米利加の大統領ウッドロオ・ウイルソンなのだから、北村・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・ それが、いよ/\現実の問題となって、四海が波立つことは、五年の後か、或は十年の後か知らない。しかし、若し、世界が現状のまゝの行程を辿るかぎり、いかに巧言令辞の軍縮会議が幾たび催されたればとて、急転直下の運命から免れべくもない。こう思っ・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・それは人類が一にならんとする傾向である。四海同胞の理想を実現せんとする人類の心である。今日の世界はある意味において五六十年前の徳川の日本である。どの国もどの国も陸海軍を拡げ、税関の隔てあり、兄弟どころか敵味方、右で握手して左でポケットの短銃・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・特務曹長「閣下の御勲功は実に四海を照すのであります。」大将「ふん、それはよろしい。」特務曹長「閣下の御名誉は則ち私共の名誉であります。」大将「うん。それはよろしい。」特務曹長「閣下の勲章は皆実に立派であります。私共は閣下・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
出典:青空文庫