・・・そう云えば一度なぞは、どこかの回漕店の看板に、赤帽の画があるのを見たものだから、あいつはまた出先まで行かない内に、帰って来たと云う滑稽もあった。 しかしかれこれ一月ばかりすると、あいつの赤帽を怖がるのも、大分下火になって来た。「姉さん。・・・ 芥川竜之介 「妙な話」
・・・香港、上海航路廻漕業の招牌が見える。橋を渡る。その間に、電車が一台すれ違って通った。人通りの稀な街路の、右手は波止場の海水がたぷたぷよせている低い石垣、左側には、鉄柵と植込み越しに永年風雨に曝された洋館の閉された窓々が、まばらに光る雨脚の間・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・である不屈不撓な事業熱をもっている船長イーベン・ホーレイの多難な生涯と揚子江上の荒々しい回漕事業の盛衰とをこの小説の縦糸にしているのである。 中国の歴史がうつりかわるにつれて揚子江沿岸の軍閥が擡頭して、白人の事業を破滅に導き、それがやが・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
・・・大阪商人の富は、封建領主達が領地の農民から取立てていた米を廻漕し、その収穫と収穫との間に金銭の立替をして利をとりやがて集めた米を土台に相場をして、政治的には支配者であった武士の経済を本質的に大坂の商人が掌握しはじめたことで増大して行った。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫