・・・ しかるに主人の口からは言いませんが、主人の妹、すなわちきょうだいの母親というも、普通から見るとよほど抜けている人で、二人の子供の白痴の原因は、父の大酒にもよるでしょうが、母の遺伝にも因ることは私はすぐ看破しました。 白痴教育という・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・そしてこのことたる全く従来の文化的指導者の認識のあやまりに由るのである。 日本の文化的指導者は祖国への冷淡と、民族共同体への隠されたる反感とによって、次代の青年たちを、生かしも、殺しもせぬ生煮えの状態にいぶしつつあるのである。これは悲し・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そうした離合の拠るべき法則というものはないのか。それはごく一般的にいえば、共通の理想、主義、仕事、ないしは「道」あるいは「子ども」を守って生き得るときは結合せよ。そうした表現が今日の場合抽象にすぎるならば、人間生活の具体的な単位である国民道・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・伝説に依ると、水内郡荻原に、伊藤豊前守忠縄というものがあって、後堀河天皇の天福元年(四条天皇の元年で、北条泰時にこの山へ上って穀食を絶ち、何の神か不明だがその神意を受けて祈願を凝らしたとある。穀食を絶っても食える土があったから辛防出来たろう・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ これ私の性の獰猛なるに由る乎、癡愚なるに由る乎、自分には解らぬが、併し今の私に人間の生死、殊に死刑に就ては、粗ぼ左の如き考えを有って居る。 二 万物は皆な流れ去るとヘラクリタスも言った、諸行は無常、宇宙は変化の・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・私は自分の考えることをこの子にも言って置きたいと思って、一生他人に依るようなこれまでの女の生涯のはかないことなどを話し聞かせた。 それにしても、筆執るものとしての私たちに関係の深い出版界が、あの世界の大戦以来順調な道をたどって来ていると・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・時評に依ると、お前の心境いよいよ澄み渡ったそうだね、あはは。家庭の幸福か。妻子のあるのは、お前ばかりじゃありませんよ。 図々しいねえ。此頃めっきり色が白くなったじゃないか。万葉を読んでいるんだってね。読者を、あんまり、だまさないで下さい・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・て宛然まのあたり萩原某に面合わするが如く阿露の乙女に逢見る心地す相川それの粗忽しき義僕孝助の忠やかなる読来れば我知らず或は笑い或は感じてほと/\真の事とも想われ仮作ものとは思わずかし是はた文の妙なるに因る歟然り寔に其の文の巧妙なるには因ると・・・ 著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三 「怪談牡丹灯籠」
・・・主な材料はモスコフスキーの著書に拠る外はなかった。要するに素人画家のスケッチのようなものだと思って読んでもらいたいのである。二 アルベルト・アインシュタインは一八七九年三月の出生である。日本ならば明治十二年卯歳の生れで数え年・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ ○ 文学者を嫌うのも、検事を憎むのも、それは各人の嗜性に因る。父の好むところのものは必しも児のよろこぶものではない。嗜性は情に基くもので理を以て論ずべきではない。父と子と、二人の趣味が相異るに至るのは運命の戯・・・ 永井荷風 「西瓜」
出典:青空文庫