・・・リップスもいうように、非決定論の自由は意欲が因果律に従うことをこばむものである。しかし因果律は先験的な精神の法則であって、これに従わずに思考することはわれわれにはできない。それなら非決定的の自由とは思考ではなく、その放棄であろうか。 ニ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 因果律といったようなものにしても、その考えは科学の歴史の上でもいろいろの変遷を遂げて来た。そうして一時は仏説などの因果の考えとは全く背馳する別物であるかのように見えたのが、近ごろはまた著しい転向を示して来て、むしろ昔の因果に逆もどりし・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかし因果律の解釈や、認識論学者の取扱うごとき問題は、余のここに云為すべき所にあらず。ただ物理学上の立場より卑近なる考察を試むべし。 厳密なる意味において「物理的孤立系」なるものが存せず、すなわち「万物相関」という見方よりすれば、一つの・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・この考えの根本的な変遷はいわゆる「因果律」の概念にもまた根本的の変化を要求する。しかしそれは単に原子電子の世界に関する事ばかりでなく、これらの原子電子から構成されているすべての世界における因果関係に対する考え方の立て直しを啓示するように見え・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・しかしまた犯罪心理学者の研究資料にもなれば、科学的認識論の先生が因果律の講釈をする時の材料にもなりうる。 因果をつなぐかぎの輪はただ一つ欠けても縁が切れる。この明白な事をわれわれはつい忘れたりごまかしたりする事がある。われわれの過失の多・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・そうしてこの真のあらわし方、すなわち知を働かす具合も分化していろいろになりますが、おもに人間の精神作用が、(この場合にはにおけるごとく人間を純感覚物と見做あらかじめ吾人の予想した因果律と一致するか、またはこの因果律に一歩の分化を加えたる新意・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫