・・・伝内はビクともせず、「邪険でも因業でも、吾、何にも構わねえだ。旦那様のおっしゃる通りきっと勤めりゃそれで可いのだ。」 威をもって制することならずと見たる、お通は少しく気色を和らげ、「しかしねえ、お前、そこには人情というものがある・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・ 壮佼はますます憤りひとしお憐れみて、「なんという木念人だろう、因業な寒鴉め、といったところで仕方もないかい。ときに爺さん、手間は取らさねえからそこいらまでいっしょに歩びねえ。股火鉢で五合とやらかそう。ナニ遠慮しなさんな、ちと相談も・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・私にも、人のよい、たわいない一面があって、まさかトマスほどの徹底した頑固者でもないようだけれども、でも、うっかりすると、としとってから妙な因業爺になりかねない素質は少しあるらしいのである。私は山岸さんの判定を、素直に全部信じる事が出来なかっ・・・ 太宰治 「散華」
・・・ 声をあげて泣き出しそうな心持でスムールイとわかれ、下船した後、ゴーリキイは再び因業な嫁姑のいがみ合っている元の製図師のところで働くことになった。 日夜妻と母親との口論に圧しつけられながら食堂のテーブルに製図板をのせて、ニージニ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫