・・・巡的だってあの大きな図体じゃ、飯もうんと食うだろうし、女もほしかろう。「お前もか。己れもやっぱりお前と同じ先祖はアダムだよ」とか何とか云って見ろ。己れだって粗忽な真似はし無えで、兄弟とか相棒とか云って、皮のひんむける位えにゃ手でも握って、祝・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・いえ、自慢じゃありませんがね、昨夜ッから申す通り、野郎図体は不器用でも、勝奴ぐらいにゃ確に使えます。剃刀を持たしちゃ確です。――秦君、ちょっと奥へ行って、剃刀を借りて来たまえ。」 宗吉は、お千さんの、湯にだけは密と行っても、床屋へは行け・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ できすぎてしまった。図体が大きすぎて、内々、閉口している。晩成すべき大器かも知れぬ。一友人から、銅像演技という讃辞を贈られた。恰好の舞台がないのである。舞台を踏み抜いてしまう。野外劇場はどうか。 俳優で言えば、彦三郎、などと、訪客・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・私は、戸石君の大きすぎる図体に、ひそかに同情していたのである。兵隊へ行っても、合う服が無かったり、いろいろ目立って、からかわれ、人一倍の苦労をするのではあるまいかと心配していたのであったが、戸石君からのお便りによると、「隊には小生よりも・・・ 太宰治 「散華」
・・・赤毛は、ポチの倍ほども大きい図体をしていたが、だめであった。ほどなく、きゃんきゃん悲鳴を挙げて敗退した。おまけにポチの皮膚病までうつされたかもわからない。ばかなやつだ。 喧嘩が終って、私は、ほっとした。文字どおり手に汗して眺めていたので・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ときどき、すすけた古い型のバスが、ふとった図体をゆすぶりゆすぶり走って通る。木曾路、なるほどと思った。湯のまちらしい温かさが、どこにも無い。どこまで歩いてみても、同じことだった。笠井さんは、溜息ついて、往来のまんなかに立ちつくした。雨が、少・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・ もうそれでいいのだから孝ちゃんに何にも云わなかったけれ共、どうしたらあんな大きな図体をして気恥かしくもなくあんな事をやられたものだろうと、あきれ返ってしまった。 そんな事々が皆奥さんの不始末の様に思えてならなかった。 鶏小屋が・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫