・・・処を図案まで、あの方がなさいました。何から思いつきなすったんだか。――その赤蜻蛉の刺繍が、大層な評判だし、分けて輸出さきの西洋の気受けが、それは、凄い勢で、どしどし註文が来ました処から、外国まで、恥を曝すんだって、羽をみんな、手足にして、紅・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・話を承ってみると、先方は、小学校を出たきりで、親も兄弟もなく、その私の亡父の恩人が、拾い上げて小さい時からめんどう見てやっていたのだそうで、もちろん先方には財産などある筈はなく、三十五歳、少し腕のよい図案工であって、月収は二百円もそれ以上も・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ 洋画家並びに図案家としての津田君は既に世間に知られている。しかし自分が日本画家あるいは南画家としての津田君に接したのは比較的に新しい事である。そしてだんだんその作品に親しんで行くうちに、同君の天品が最もよく発揮し得られるのは正しくこの・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ 呉服の地質の種類や品位については全く無知識な自分も、染織の色彩や図案に対しては多少の興味がある。それで注意して見ると、近ごろ特に欧州大戦が始まって後に、三越などで見かける染物の色彩が妙に変わって来たような気がする。ある人は近ごろはこん・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・先ず第一に表紙の図案が綺麗で目新しく、俳味があってしかも古臭くないものであった。不折、黙語、外面諸画伯の挿画や裏絵がまたそれぞれに顕著な個性のある新鮮な活気のあるものであった。現在のようなジャーナリズム全盛時代ではおそらく大多数のこうした種・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・帝王の画を眼前でかいて見ろと云われても、すぐと図案は拵えられんだろうと思います。私共の脳中にはこの帝王と云うものがすこぶる漠然として纏らない図になって畳み込まれています。ところへ the head that wears a corwn と云・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・器具は特別に芸術家の手を煩わして図案をさせたものである。書架は豊富である。Bibelots と云う名の附いている小さい装飾品に、硝子鐘が被せてある。物を書く卓の上には、貴重な文房具が置いてある。主人ピエエルが現代に始めて出来た精神的貴族社会・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 白リネンの小布を持ち上げて、縫かけの薊の図案を見せる。――膝に開いた本をのせたまま手許に気をとられるので少し唇をあけ加減にとう見こう見刺繍など熱心にしている従妹の横顔を眺めていると、陽子はいろいろ感慨に耽る気持になることがった。夫の純・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・そしてそういう美の世界では、宗達が嘗つて人間を自在に登場させた可能が封じられて、おのずから波や花鳥、人生としては従のものが図案の主な題材とならざるを得なかったということも示唆にとんでいる。 秋声・藤村 藤村と秋・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・鼈甲、品質はよいのだろうが、図案もう一息。特に飾ピンなど。寄合町迄行って帰りに驟雨に会った。 第二日 多忙な永山氏を煩すことだから、大奮発で七時起床。短時間の滞在だから永山氏に大体観るべきところの教示を受けたい・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
出典:青空文庫