・・・絵というと面倒だから図画で行くのさ。紅を引いて、二つならべれば、羽子の羽でもいい。胡蘿蔔を繊に松葉をさしても、形は似ます。指で挟んだ唐辛子でも構わない。――」 と、たそがれの立籠めて一際漆のような板敷を、お米の白い足袋の伝う時、唆かして・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ これは、私にとって、特殊的な場合でありますが、長男は、来年小学校を出るのですが、図画、唱歌、手工、こうしたものは自からも好み、天分も、その方にはあるのですが、何にしても、数学、地理、歴史というような、与えられたる事実を記憶したりする学・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・ 政ちゃんは、学校で、先生が、こんどなんでも持ってきて、図画の時間に写生してもいいと、おっしゃったことを思い出しました。「僕、これを学校へ持っていって写生してもいいの。」「みごとに描けたら、おばあさんに送っておあげなさい。どんな・・・ 小川未明 「政ちゃんと赤いりんご」
・・・その出品は重に習字、図画、女子は仕立物等で、生徒の父兄姉妹は朝からぞろぞろと押かける。取りどりの評判。製作物を出した生徒は気が気でない、皆なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこの展覧会に出品するつもりで画紙一枚に大きく馬の頭・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・あれは小学校に居る時代から図画が得意でして、その方では何時でも甲を貰って来ましたよ。私が伜に、お前は何に成るつもりだッて聞きましたら、僕は大きく成ったら、泉先生のように成るんだなんて……あれで物に成りましょうか……」 学士はチビリチビリ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 午後の図画の時間には、皆、校庭に出て、写生のお稽古。伊藤先生は、どうして私を、いつも無意味に困らせるのだろう。きょうも私に、先生ご自身の絵のモデルになるよう言いつけた。私のけさ持参した古い雨傘が、クラスの大歓迎を受けて、皆さん騒ぎたて・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・女学校の図画の先生であった。峠を越えて八里はなれた隣りのまちの、造り酒屋の次男であった。からだも、心も、弱い人であった。高野の家には、土地が少しあった。女学校の先生をやめても、生活が、できた。犬を連れ、鉄砲をしょって、山を歩きまわった。いい・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 中学時代に少しばかり油絵をかいてみた事はある。図画の先生に頼んで東京の飯田とかいううちから道具や絵の具を取り寄せてもらって、先生から借りたお手本を一生懸命に模写した。カンバスなどは使わず、黄色いボール紙に自分で膠を引いてそれにビチュー・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・静かな田舎で地味な教師をして、トルストイやドストエフスキーやロマン・ローランを読んだりセザンヌや親鸞の研究をしたり、生徒に化学などを授けると同時に図画を教えたり、時には知人の肖像をかいてやったりするような生活は、おそらく亮が昔から望んでいた・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ ひるすぎは先生もたびたび教壇で汗をふき、四年生の習字も五年生六年生の図画もまるでむし暑くて、書きながらうとうとするのでした。 授業が済むとみんなはすぐ川下のほうへそろって出かけました。嘉助が、「又三郎、水泳ぎに行がないが。小さ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
出典:青空文庫