・・・時雨哉葛の葉のうらみ顔なる細雨かな頭巾著て声こもりくの初瀬法師 晋子三十三回忌辰擂盆のみそみめぐりや寺の霜 または 題白川黒谷の隣は白し蕎麦の花のごとき固有名詞をもじりたるもあり。または・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・だが、彼は、はっきりと固有名詞を云って、それらの人間が、どこそこであの時計を俺の手からはずして机のひき出しに入れた、かえして貰え、いろいろの記念であるからと云った。私も、取戻したく思い、一通りその手続きをした。役人は、品物はないから、金で弁・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・又、現代社会の経営的機構は一個のXなる青年の生涯を冷酷な一部分品、しかも消耗したら手軽にいくらでもとりかえることの出来る部分品としてだけ扱っているので、謂わばこの世に自分という人間の生きているという固有名詞をせめて印刷物の上にでも主張したい・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫