・・・どうにかしてこの古び果てた習慣の圧力から脱がれて、驚異の念を以てこの宇宙に俯仰介立したいのです。その結果がビフテキ主義となろうが、馬鈴薯主義となろうが、将た厭世の徒となってこの生命を咀うが、決して頓着しない!「結果は頓着しません、源因を・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・の時に当たりて、わが血わが心はこれらを懐うごとにいかに甘き美感を享けて躍りたるぞ、さらに負うところの大なる者は、われこの不可思議なる天地の秘義に悩まさるるに当たり、これらの風光を憶うことによりて、その圧力を支え得たることなり。もしそれこれを・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・何せ小さい釘のことであるから、ちからの容れどころが無く、それでも曲った釘を、まっすぐに直すのには、ずいぶん強い圧力が必要なので、傍目には、ちっとも派手でないけれども、もそもそ、満面に朱をそそいで、いきんでいました。そうして笠井さんは、自分な・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・赤熱した岩片が落下して表面は急激に冷えるが内部は急には冷えない、それが徐々に冷える間は、岩質中に含まれたガス体が外部の圧力の減った結果として次第に泡沫となって遊離して来る、従って内部が次第に海綿状に粗鬆になると同時に膨張して外側の固結した皮・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ 火鉢には一塊の炭が燃え尽して、柔らかい白い灰は上の藁灰の圧力にたえかねて音もせずに落ち込んでしまった。この時再び家を動かして過ぎ去る風の行えをガラス越しに見送った時、何処とも知れず吹入った冷たい空気が膝頭から胸に浸み通るを覚えた。この・・・ 寺田寅彦 「凩」
・・・例えば地殻の一部分にしかじかの圧力なり歪力なりが集積したために起ったものであるという判断である。 これらの学説が仮りに正しいとした時に、更に次の問題が起る。すなわち地殻のその特別の局部に、そのような特別の歪力を起すに到ったのは何故かとい・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・液体力学の教えるところではこういう崖の角は風力が無限大になって圧力のうんと下がろうとする所である。液体力学を持ち出すまでもなく、こういう所へ家を建てるのは考えものである。しかしあるいは家のほうが先に建っていたので切り通しのほうがあとにできた・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・その首を口にふくんで適当な圧力で吹くと底のガラスの薄板がポンという音を立ててその曲率を反転する。逆に吸い込むとペンと言ってもとの向きに彎曲する。吹くのと吸うのを交互に繰り返すと、ポペン/\/\というふうな音を出す。吹き方吸い方が少し強すぎる・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・玄人の談によると、強いフォルテを出すのでも必ずしも弓の圧力や速度だけではうまく出るものではないそうである。たとえばイザイの持っていたバイオリンはブリジが低くて弦が指板にすれすれになっていた、他人が少し強くひこうとすると弦が指板にぶつかって困・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・実際脳の灰白質を養う血管の中の圧力がどれだけ減るのかあるいは増すのかわからないが、ともかくもそんな気がする。そうしてなんとなく空虚と倦怠を感じると同時に妙な精神の不安が頭をもたげて来る。なんだかしなくてはならない要件を打ち捨ててでもあるよう・・・ 寺田寅彦 「春六題」
出典:青空文庫