・・・国とは言えない、という実に一から十までそのとおりの事で、阿呆な子に向って、お前は家の足手まといになるから死ぬがよい、と言うほどのおそろしく的確なやっつけ方で、みも、ふたも無く、ダメなものはダメと一挙に圧殺の猛烈さでございまして、私はそのお方・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・言わんか、「窮鳥を圧殺す。」八日。 かりそめの、人のなさけの身にしみて、まなこ、うるむも、老いのはじめや。九日。 窓外、庭の黒土をばさばさ這いずりまわっている醜き秋の蝶を見る。並はずれて、たくましきが故に、死なず在り・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・それからあとプロレタリア文化文学運動の圧殺されたのち、『冬を越す蕾』『明日への精神』が、辛うじて出版された時代の文章は、どうだろう。それはすべて奴隷の言葉、奴隷の表現でかかれなければならなかった。文章は曲線的で、暗示的で、常に半分しか表現し・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・戦争について意見をもつ文化は、少数者の高すぎる文化として圧殺された。 日本が降伏して、日本の民主化がいわれはじめた。新しい日本の社会生活へ生れかわろうとする人民の真実な希望がうかがわれるらしく見えた。しかし三年たったいま、わたしたちのぐ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・このことは、とりもなおさず、過去の文学の休止符はどの辺でうたれたかというきびしい現実を示す一方、この数年の間、日本の民衆生活内部にある若々しく貴重な創造力が、どれほど徹底的に圧殺されてきたかということを証明している。 作家たちは、自分た・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ ゴールスワアジーらしい穏やかさを湛えながら、ほんとの人間性のきよらかさ、まじりけない行為を圧殺しているイギリスの型にはまったモラル、純潔についての偏見に抗議している。 D・H・ローレンスも、純潔についてのキリスト教会的偏見に対して・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・或は、今日における科学と科学者との弱い部分、非科学的な部分、内部的分裂面が文化反動に影響され、客観的には、知性、人間性の圧殺に加担したことになりやすい。今日はその危険に対する自他ともの慎重な戒心が決して尠くてよい時期ではないのである。〔一九・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・が、従来多くの男性を圧殺し続けて来た、所謂男らしさに心の歪けさせられた者は、憧憬をねじ向けて、嫌厭に突込んでしまいます。そして、ちっそくしながら、地上あらゆる女性に向って、死物狂いの呪咀を浴びせるのではございますまいか。 其処で、私は、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ましてや、微風のような異性の間の情味や生活の歓喜の一つの要素としての感覚・官能の解放は圧殺されていた。きょう私たちは人民が人民の主人となった解放のすがすがしさに、思わず邪魔な着物はぬぎすてて、風よふけ日よおどれと、裸身を衆目にさらしているの・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ところが日本の支配階級が、大衆の進歩性を抑圧することは実に烈しく、特に最近の十余年間は、全く軍事目的のために民衆の意志を圧殺しつづけた。プロレタリア文学というものは、結局新しい社会的発展を求めて、半封建的なブルジョア社会の矛盾と桎梏とを、否・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫