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・・・――一度この鐘楼に上ったのであったが、攀じるに急だし、汗には且つなる、地内はいずれ仏神の垂跡に面して身がしまる。 旅のつかれも、ともに、吻と一息したのが、いま清水に向った大根畑の縁であった。 ……遅めの午飯に、――潟で漁れる――わか・・・
泉鏡花
「夫人利生記」
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・・・内の地内に住んで居るから、もうすこしで椽側につこうとした時急に敵が人の足をつついた。私はたまらなくなって「にわとり――」と叫んで草履のまま椽に飛び上った。茶の間で新聞をよんでいらっしゃったお祖母様はおどろいてとんで来て下さった。私が草履のま・・・
宮本百合子
「三年前」