・・・ やがて停車場へ出ながら視ると、旅店の裏がすぐ水田で、隣との地境、行抜けの処に、花壇があって、牡丹が咲いた。竹の垣も結わないが、遊んでいた小児たちも、いたずらはしないと見える。 ほかにも、商屋に、茶店に、一軒ずつ、庭あり、背戸あれば・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・宮裏に、この地境らしい、水が窪み入った淀みに、朽ちた欄干ぐるみ、池の橋の一部が落込んで、流とすれすれに見えて、上へ落椿が溜りました。うつろに、もの寂しくただ一人で、いまそれを見た時に、花がむくむくと動くと、真黒な面を出した、――尖った馬です・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ 私共は、ガヤガヤ云いながら風呂場の前まで行くと、すぐ傍の、隣の地境に、歯抜けになった小階子が掛って居るのを見つけた。「あ! 階子! 階子がありますよ。 これじゃもう此処から入ったとほか云えませんね。 皆は、杉の・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・あっち側からとこっち側からと草刈りに来る村人たちは大方領主がそれぞれちがっていて、地境にある草地の草を、どっちが先に刈るかというような争いから、丁髷を振り立てて鎌戦さになることがあったのだろう。 明治の政府になってから五年目に安場保和の・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫