・・・これは数年前京都大学の地球物理学者たちがここにエアトヴァスの重力偏差計をすえ付けて観測した地点を示す標柱だそうである。年々に何百人という登山者のうちで、こんな柱の立っているのに気のつく人はいくらもないかもしれない。まして、その柱の意味を知る・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・要塞というものは必ず景勝の地であり、また必ず地学的に最も興味ある地点になっているのは面白い事実であろう。大神宮のすぐ下にソビエト領事館がある。これも面白い事実である。門の鉄扉の外側に子守が二、三人立って門内の露人の幼児と何か言葉のやりとりを・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・獄門の晒首や迷子のしるべ、御触れの掲示などにもまたしばしば橋の袂が最もふさわしい地点であると考えられた。これは云うまでもなく、橋が多くの交通路の集合点であって一種の関門となっているからである。従ってあらゆる街路よりも交通の流れの密度が大きい・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・斉明天皇の御代に二艘の船に分乗して出掛けた一行が暴風に遭って一艘は南海の島に漂着して島人にひどい目に遭わされたとあり、もう一艘もまた大風のために見当ちがいの地点に吹きよせられたりしている。これは立派な颱風であったらしい。また仁明天皇の御代に・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 台風の襲来を未然に予知し、その進路とその勢力の消長とを今よりもより確実に予測するためには、どうしても太平洋上ならびに日本海上に若干の観測地点を必要とし、その上にまた大陸方面からオホツク海方面までも観測網を広げる必要があるように思われる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・人間の歴史のある時期に地球上のある地点に発生した文化の産物は時間の経過とともに人為的のあらゆる障壁を無視して四方に拡散するのは当然である。永代橋から一樽の酒をこぼせば、その中の分子の少なくもある部分はいつかは、世界じゅうの海のいかなる果てま・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・新聞記事は例によってまちまちであって、感傷をそそる情的資料は豊富でも考察に必要な正確な物的資料は乏しいのであるが、内務省警保局発表と称する新聞記事によると発火地点や時刻や延焼区域のきわめてだいたいの状況を知ることはできるようである。まず何よ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ときどきつれの小娘に肩をよせてから前こごみになってひびかせる笑い声が、三吉をあわてさせるのであるが、そしてきょうもとうとう土堤道のある地点にくるまで、声をかけるどころか、歩いているかんかくをちぢめることさえ出来なかった。 彼女たちはそこ・・・ 徳永直 「白い道」
イーハトヴは一つの地名である。しいて、その地点を求むるならば、それは、大小クラウスたちの耕していた、野原や、少女アリスがたどった鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠のはるかな北東、イヴン王国の遠い東と考えられる。じつ・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・我輩はその地点を記録する。もう一足だぞ。」大学士はいよいよ勢こんでその足跡をつけて行く。ところが間もなく泥浜は岬のように突き出した。「さあ、ここを一つ曲って見ろ。すぐ向う側にその骨がある。けれども事によったらすぐないかも・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫