・・・をよむと、誤りをみとめつつ、なお林房雄などの卑劣さに対する本質的ないきどおりをしずめかねて、うたれつつたたかれつつ、なお自分の発言した心情の地点を譲歩しようとしていないわたしの姿が浮んでいる。 当時の運動の困難な状態が、運動に熟達してい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・この大きな歴史的な課題は、それぞれの民主的な作家によって、それぞれの地点と角度から、それぞれの色あい度あいによってはたされてゆくであろう。「風知草」「播州平野」「二つの庭」「道標」それにつづいて執筆されつつある一九四五年以後の作品は、その作・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・まけおしみぬきで、事実を事実として見るならば、民主的文学運動におけるこの地点には、思いのほかの地すべりがある。 太宰治の死に際して、受動的な形であらわれた民主的批評の実質についての危機は、つづいて一昨年の初夏、多くの文学者が、反ファシズ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ すっきりとした初夏の服装で、大きめのハンド・バッグを左腕にかけ、婦人兵士の最後の列の閲兵を終ろうとしている王女エリザベスの目の下に、一人の婦人兵士が直立不動で立っていたその地点から足をはなさないまま、失神して仰向けに倒れている。白手袋・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・作者がこんにち立っている地点から、網がなげられるしかないのである。 ところで、わたしには問題があった。社会主義リアリズムの方法は自身の経験のうちで意識して試みられた例に乏しいばかりか、一般にその方法の機能について、更にその機能の細部につ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・けれども、人間性を自分の枠のなかからたたき出して、辛い旅をさせ、客観的に追いつめられるだけ追いつめて見て到達した地点へ、自分の生きかたの足場を刻みつけて進んでゆくという、アルプス登攀のような文学と生活との方法は、ざらにあるだろうか。 経・・・ 宮本百合子 「作品と生活のこと」
・・・ きょうもまた、この古き地点からそのままひきうつして世界観の問題や創作方法のことを語る若い人々がある。 プロレタリア文学の新しい民主主義文学との生けるつながりが明らかとなるにつれ、新しい民主主義がすでにその前脚をかけている社会主・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・潮のきつい海の上で当人は一生懸命こっちへ向っていい気持に漕いでいるつもりだのに、数刻経て見たら、豈計らんやかくの如き地点に押し流されて来ていた、という場合が決して少くない。昨今従来のタイプの作家が主観的であるという特質は、時代的底潮によって・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・日本と米国そのものが人民の平和より何より先に戦略的な地点として考えられるような考えかたに麻痺させられず、世界の軍備縮少を要求しアジアにおいてそれを実現させる力となって行かなければならないと思う。 去年もおしつまった十二月四日から一週間日・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・彼らは花園に接近した地点を撰ぶと、その腐敗した肺臓のために売れ残って腐り出しただけの魚の山を、肥料として積み上げた。忽ち蠅は群生して花壇や病舎の中を飛び廻った。病舎では、一疋の蠅は一挺のピストルに等しく恐怖すべき敵であった。院内の窓という窓・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫