・・・十二三の自分は、理性と感情との不均斉から絶えず苦しんでいた。恐ろしく孤独だった。世界が地獄のようであった。そして、今年十九に成った愛弟は、まだ純白な小羊であったのである。 その先生の夢を思い掛けず此間の晩に見た。先生は昔のように細面な、・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ 大層すらりと均整の整った体躯、睫の長い、力ある大きな二つの眼、ゆっくりとつくろわず結ねられている髪や衣服のつけ方などが、先ず外形的に、一種の快さを与えた。 最初の一瞥で、何とも云えず感じの深い而も充分威に満ちた先生の為人を感じた私・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・汽車は高いところを走っているから、そういうゴミゴミした大都会の入口の町並一帯の直ぐ向うの広いコンクリの改正通りには均斉を保って街燈が立連り、トラックなどが走っているのまで、車窓からつきとおしに見渡せるのである。 紺足袋は娘に、もう直ぐだ・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・で福沢諭吉が最も力をこめている点は、婦人の独自な条件に立っての体育、知育、徳育の均斉と、結婚生活における夫婦の「自ら屈す可からず、又他をして屈伏せしむべから」ざる人生の天然に従った両性関係の確立、再婚の自由、娘の結婚にあたって財産贈与などに・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ フロベニウスはそこに教養の均斉を見いだした。上下がこれほどそろって教養を持っているということは、北方の文明人の国にはどこにもない。 が、この最後の「幸福の島」もまもなくヨーロッパ文明の洪水に浸された。そうして平和な美しさは洗い去ら・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫