・・・もっともわざと焦点をはずした場合のように全部が均等に調和的にぼやけたのならば別であるが、明確なものと曖昧なものとが雑然と不調和に同居しているところに破綻があり不快がある。このような失敗はほとんど日本の時代物の映画に限って現われる特異現象であ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうしてそのおのおのが七曜日のいずれに起こる確率も均等であると仮定すれば、三度続けて金曜日に起こるという確率は七分の一の三乗すなわち三百四十三分の一である。しかしこれはまた、木曜が三度来る確率とも同じであり、また任意の他の組み合わせたとえば・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・換言すれば週期的運動の位相がほぼ等分にちがっているほうが乗客の待ち合わせる時間を均等にし従って乗客の数を均等に分布する点で便利であろうと思われる。しかし実際には三つがほぼ同時に同じ階を同じ方向に通過する場合が多いように思われる。もっともそう・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ それでもしこのような片寄りがちの運転状況を避けて、もう少し均等な分配を得たいというならば、そのために採るべき方法は理論上からは簡単である。第一には電車の車掌なり監督なりが、定員の励行を強行する事も必要であるが、それよりも、乗客自身が、・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・ これらの現象を通じて言われることは、普通の古典的な理論的考察からすれば、およそ一様に均等に連続的にあるいは対称的に起こるであろうと考えらるるものが、実際には不均等に非対称的に不連続的にしかも統計的に起こるのである。このような場合を適当・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 吾人の理性に訴えて描き出す幾何的の空間、至るところ均等で等向的な性質を備えた空間は吾人の視感に直接訴える空間とは恐ろしくかけ離れたものである。視感的空間では仰向きの茶わんとうつ向きの茶わん、一里を隔てた山と脚下の山とはあまりに相違した・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・ 方則が可能であるためには宇宙の均等という事が必要である。時と空間に対して不変な事実が認め得られる事が必要である。かくのごとき事実が吾人に認め得られるというのは不思議な事ではあるまいか。 華厳経に万物相関の理というのが説いてあるそう・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ 例えば、女性の政治的権利の要求、社会生活の上の機会均等などの要求も、一人の人の発育の過程によって、其態度が違って来る。一人の或る女――それは娘時代には昔風の母親に生活させられた、然し時代が真の女性の本分を要求したのに刺戟されて、初めて・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・提供すべき生産力と、提供した生産力に対して受けるものの比例は、理想からいえば、出来るだけ均等なものにしようとしている。 例えば家庭というものは女にどうしても用が多い。洗濯をする、炊事、育児、そういうものをソヴェトでは出来るだけ社会的にし・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・各人の生活の実体は列に立ったとき、最も単一な面で均等されるわけである。列の心理の一面には、俺だろうがどこの誰様だろうが、というところがある。そして、何となしほかのひとのことに口出しをするのが面映ゆくなくなるような心理の傾きは興味ふかく注意を・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
出典:青空文庫