・・・しかしながら同時に一面には労働運動を純粋に労働者の生活と感情とに基づく純一なものにしようとする気勢が揚りつつあるのもまた疑うべからざる事実である。人はあるいはいうかもしれない。その気勢とても多少の程度における私生児らがより濃厚な支配階級の血・・・ 有島武郎 「片信」
・・・「性的衝動に基づく男女間の愛情。すなわち、愛する異性と一体になろうとする特殊な性的愛。」 しかし、この定義はあいまいである。「愛する異性」とは、どんなものか。「愛する」という感情は、異性間に於いて、「恋愛」以前にまた別個に存在してい・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・純粋に解析的と考えられる数学の部門においてすら、実際の発展は偉大な数学者の直感に基づく事が多いと言われている。この直感は芸術家のいわゆるインスピレーションと類似のものであって、これに関する科学者の逸話なども少なくない。長い間考えていてどうし・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・しかしその半面の随伴現象としていわゆる骨董趣味を邪道視し極端に排斥し、ついには巧利を度外視した純知識慾に基づく科学的研究を軽んずるような事があってはならぬと思う。直接の応用は眼前の知識の範囲を出づる事は出来ない。従ってこれには一定の限界があ・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・金相学上の顕微鏡写真帳も、そういうスケールを作るための素材の堆積であるとも言われよう、もし、あの複雑な模様を調和分析にかけた上で、これにさらに統計的分析を加えれば、系統的な分類に基づくスケールを設定することも、少なくも原理的には可能である。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・むしろ、人間というものが、そういうふうに驚くべく忘れっぽい健忘性な存在として創造されたという、悲しいがいかんともすることのできない自然科学的事実に基づくものであろう。 今回の函館の大火はいかにして成立し得たか、これについていくらかでも正・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ 目が開閉自在であるという事実に基づくいろいろな現象は、やはりいくらかトーキーに応用されてもいいと思う。たとえばわれわれは音楽を聞きながら目を閉じて聞き入る場合がある。それで、トーキーの場合にも一時スクリーンを暗くして音だけを聞かせるこ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・こうして自敬の念に基づく心構えが、やがて武道とか男の道とかの主要な内容になってくると、争闘の技術としての武道の意味はむしろ「兵法」という言葉によって現わされるようになっている。そこで、武道、男の道、武士の道などと言われるものは、自敬の立場に・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・現下の険悪な世情は、政治家が聖勅に違背したことに基づく。というのは、天下万民をして「各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す」との聖旨を奉戴しなかったことに基づく。国民の大部分がその志を遂げようとすることを、なんらか危険なことの・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・ が、他の人の気を兼ねるという傾向は、右のような好みにのみ基づくのではあるまい。物心がついて以後の藤村の生い立ちの苦労が、この傾向と深く結びついているであろう。『桜の実の熟する時』や『春』などで見ると、藤村はその少年時代や青年時代を他人・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫