・・・終わりに臨んで諸君の将来が、協力一致と相互扶助との観念によって導かれ、現代の悪制度の中にあっても、それに動かされないだけの堅固な基礎を作り、諸君の精神と生活とが、自然に周囲に働いて、周囲の状況をも変化する結果になるようにと祈ります。・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 彼らは民衆を基礎として最後の革命を起こしたと称しているけれども、ロシアにおける民衆の大多数なる農民は、その恩恵から除外され、もしくはその恩恵に対して風馬牛であるか、敵意を持ってさえいるように報告されている。真個の第四階級から発しない思・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ さらば僕はいかに観音力を念じ、いかに観音の加護を信ずるかというに、由来が執拗なる迷信に執えられた僕であれば、もとよりあるいは玄妙なる哲学的見地に立って、そこに立命の基礎を作り、またあるいは深奥なる宗教的見地に居って、そこに安心の臍を定・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・持って始めて味い得べき芸術ならば何でもよい、只其名目を弄んで精神を味ねば駄目と云う迄である、予が殊に茶の湯を挙たのは、茶の湯が善美な歴史を持って居るのと、生活に直接で家庭的で、人間に尤も普遍的な食事を基礎として居る点が、最も社会と調和し易い・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・言文一致ニカギル、コウ思附イタ上ハ、基礎ヤ標準ヤニ頓着スルマデモアリマセヌ、タダヤタラニオハナシ体ヲ振廻シサエスレバ、ドコカラカ開化ガ参リマスソウデ、私モマケズニ言文一致デコノ手紙ヲシタタメテ差上ゲマス、今ニ三輪田君ノ梅見ニ誘ウ・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・この俗曲論は日本の民族性の理解を基礎として立てた説であるが、一つは両親が常磐津が好きで、児供の時から聴き馴れていたのと、最一つは下層階級に味方する持前の平民的傾向から自然にこれらの平民的音曲に対する同感が深かったのであろう。 二葉亭は洋・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・且つ、科学的基礎のあることをば信ずる。たゞこれを漫然と繙くものに、いずこにか、ナロードニーキの運動を嗤う権利があろう? 現代は、科学的という言葉に、あまり多くの意味を置きすぎている。科学的に、人間生活が解釈され得るとするも、それは、ある・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ しかし、科学的知識のみを基礎とした読物は、たとえ好奇心と興味とを多分に持たせることはできても、個性や、特質や、体験ということを無視するが故に、いまだこれをもって真の理解に到達したとはいえないのであります。そしてその暁は、かの架空的なお・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・そして経済条件をその幸福の基礎とする点において、物的福利を重んずる。それが実質的、現実的、社会的であってカントの倫理学の形式主義、先験主義、自律主義に不満なのはもとよりそのところである。 フォイエルバッハはヘーゲルからエンゲルスの橋渡し・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・これに比べれば恋愛の社会的基礎の討究さえも第二義的というべきだ。ましてすでに結婚後の壮年期に達したるものの恋愛論は、もはや恋愛とは呼べない情事的、享楽的漁色的材料から帰納されたものが多いのであって、青年学生の恋愛観にとっては眉に唾すべきもの・・・ 倉田百三 「学生と生活」
出典:青空文庫