・・・鴒の屋根へ来ること、射的に七円五十銭使ったこと、田舎芸者のこと、安来節芝居に驚いたこと、蕨狩りに行ったこと、消防の演習を見たこと、蟇口を落したことなどを記せる十数行それから次手に小説じみた事実談を一つ報告しましょう。もっともわたしは素人です・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・ですから夫婦仲の好かった事は、元より云うまでもないでしょうが、殊に私が可笑しいと同時に妬ましいような気がしたのは、あれほど冷静な学者肌の三浦が、結婚後は近状を報告する手紙の中でも、ほとんど別人のような快活さを示すようになった事でした。「・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・父がくどくどと早田にいろいろな報告をさせたわけが彼にはわかったように思えた。「たいていわかりました」 その答えを聞くと父は疑わしそうにちらっともう一度彼を鋭く見やった。「ずいぶんめんどうなものだろう、これだけの仕事にでも眼鼻をつ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 彼らは民衆を基礎として最後の革命を起こしたと称しているけれども、ロシアにおける民衆の大多数なる農民は、その恩恵から除外され、もしくはその恩恵に対して風馬牛であるか、敵意を持ってさえいるように報告されている。真個の第四階級から発しない思・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・我々は彼の純粋にてかつ美しき感情をもって語られた梁川の異常なる宗教的実験の報告を読んで、その遠神清浄なる心境に対してかぎりなき希求憧憬の情を走らせながらも、またつねに、彼が一個の肺病患者であるという事実を忘れなかった。いつからとなく我々の心・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・己の生活を統一するに実業家のごとき熱心を有し、そうしてつねに科学者のごとき明敏なる判断と野蛮人のごとき卒直なる態度をもって、自己の心に起りくる時々刻々の変化を、飾らず偽らず、きわめて平気に正直に記載し報告するところの人でなければならぬ。・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・吉弥は平気で命令通り向うの子を承知させ、青木をかげへ呼んでその旨を報告した。「姉さんさえ承知ならッて――大丈夫よ」「………」青木は、しかしそう聴いてかえってこれを残念がり、実は本意でない、お前はそんなことをされても何ともないほどの薄・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・と書棚の中から気象学会や地震学会の報告書を出して見せた。こういうものまでも一と通りは眼を通さなければ気が済まなかったらしい。が、権威的の学術書なら別段不思議はないが、或る時俗謡か何かの咄が出た時、書庫から『魯文珍報』や『親釜集』の合本を出し・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・おりから町の子供相手の紙芝居に出かける支度中の長藤君は古谷氏の話を聞いて狂喜しさっそくこの旨を既報“人生紙芝居”のワキ役、済生会大阪府支部主事田所勝弥氏、東成禁酒会宣伝隊長谷口直太郎氏に報告、一同打ち揃って前記古谷氏宅に秋山君を訪れ、ここに・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・会という機関があって、委員には上級生がなっていたが、しかしこの委員は寮生間の互選ではなく、学校当局から指命されており、噂によれば寮生の思想傾向や行動を監視して、いかがわしい寮生を見つけると、学校当局へ報告するいわばスパイの役をしているという・・・ 織田作之助 「髪」
出典:青空文庫