・・・姓はペン渾名は bedge pardon なる聖人の事を少しく報道しないでは何だか気がすまないから、同君の事をちょっと御話して、次回からは方面の変った目撃談観察談を御紹介仕ろう。そもそもこのペンすなわち内の下女なるペンになぜ我輩がこの渾名を・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・前線へもゆきたがる作家を、陸軍の従軍報道班の人々は忍耐をもって、適当に案内し、見聞させ「戦争がその姿をあらわして来た」と亢奮をも味わせている。軍人は戦い、そして勝たなければならないという明瞭な目的によって貫かれている。居留民はそこにおける地・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・一九四一年十一月より五ヵ月ばかり、連合軍側の戦時特派員という資格で、アフリカ、近東、ソヴェト同盟、インド、中国を訪問し、ファシズム、ナチズムに対して民主主義をまもろうとする国々のたたかいの姿を報道した。「ポーランドに生れ、フランスに眠るわが・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・アメリカの科学者たちが、アインシュタインをはじめとして、人類の平和のための原子力の使いかたを主張していることは、くりかえして報道しないで、こんどは原子力よりももっと殺戮力のつよい放射線の雲をつくることが発明されたなどと、得意そうに報道しまし・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・なにしろあの当時、言論報道は全く統制されて嘘の大本営発表しか知らされなかったのだから、読者はこんにちあらわれる「秘史」にエログロと違うスリルを感じて、夏枯れしのぎに、いい思いつきのように流行しています。 これらの「秘史」「ルポルタージュ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・然し私はあの報道を手にすると共に、それは有島さんとして有り得べき事柄だと信じました。 五月の末、或る蒸し暑い日でした。波多野さんが尋ねて来ましたが、その折なるほど女は斯うあってもいいと思わせるような瀟洒な姿であるにも拘らず、何時もよりは・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・既成の作家たちは、まじめに自分の人および芸術家としてのよりどころを、なにか新らしい力づよい情熱の上に発見しようとし、戦争をその契機としてつかもうとし、なにか新らしい文学ジャンルの開拓によって、たとえば報道文学、国民文学というような転開によっ・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・然し、アタール氏とはこのまま会う機会もなく、殆ど忘れ切って過していたのが、突然、自殺の報道とともにのった写真で、その時の彼をリコグナイズしたのであった。その刹那に、自分は、狭い部屋に窮屈そうに横坐りに坐って、日本語は少し役に立つが、文字と来・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・が、娘たちがそのことを知ったのは再び彼女が出発した後、偶然化粧室で血のついた下着を見つけ、同時に新聞がそのことを報道したからであった。彼女は昔からそうであったように、自分の身について起るかも知れない危険とか激しい疲労とか、その躯におよぼして・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
最近、昆虫学の泰斗として名声のあった某理学博士が、突然に逝去された報道は、自分に、暫くは呆然とする程の驚きと共に、深い深い二三の反省ともいうべきものを与えました。故博士に就て、自分は何も個人的に知ってはおりません。 た・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
出典:青空文庫