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・・・泥色をした浅草紙を型にたたきつけ布海苔で堅めた表面へ胡粉を塗り絵の具をつけた至って粗末な仮面である。それを買って来て焼け火箸で両方の目玉のまん中に穴を明ける。その時に妙な焦げ臭いにおいがする。それから面の両側の穴に元結いの切れを通して面ひも・・・
寺田寅彦
「自由画稿」
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・・・この塗絵帳のことは、かすかに、かすかに思い出せる。エハガキ四枚が一頁に入っていて、羊と遊んでいる少女の絵などが線であらわされていた。母は私に絵具を買ってくれたろうか? 色をつけて父に送っただろうか? 覚えていない。私はきっと又母に手をもち添・・・
宮本百合子
「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」