・・・カーライルの歿後は有志家の発起で彼の生前使用したる器物調度図書典籍を蒐めてこれを各室に按排し好事のものにはいつでも縦覧せしむる便宜さえ謀られた。 文学者でチェルシーに縁故のあるものを挙げると昔しはトマス・モア、下ってスモレット、なお下っ・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・「いやこれは夜中はなはだ失礼で……実は近頃この界隈が非常に物騒なので、警察でも非常に厳重に警戒をしますので――ちょうど御門が開いておって、何か出て行ったような按排でしたから、もしやと思ってちょっと御注意をしたのですが……」 余はよう・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
中学には中学の課目があり、高等学校には高等学校の課目があって、これを修了せねば卒業の資格はないとしてある。その課目の数やその按排の順は皆文部省が制定するのだから各担任の教師は委託をうけたる学問をその時間の範囲内において出来・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・今日はすいている、善按排だ。隣りのものも前のものも次の車のものも皆新聞か雑誌を出して読んでいる。これが一種の習慣なのである。吾輩は穴の中ではどうしても本などは読めない。第一空気が臭い、汽車が揺れる、ただでも吐きそうだ。まことに不愉快極まる。・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・の気象を養ったら、何となく人生を超絶して、一段上に出る塩梅で、苦痛にも何にも捉えられん、仏者の所謂自在天に入りはすまいかと考えた。 そこで、心理学の研究に入った。 古人は精神的に「仁」を養ったが、我々新時代の人は物理的に養うべきでは・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・女房のいしが、「婆さま、塩梅どうだね」と尋ねて行った。彼女は間もなく戻って、気味わるそうに仙二に告げた。「――あの婆さま――死ぬんじゃあんめえか」「そんなか?」「なんだか――俺やあな気がしたわ」 仙二が行って見た。翌・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ 後から来た車がいかにも得意らしくスイスイと通り越して行くと私はかんしゃくを起して蹴込をトントン蹴った、それでもズドンズドンしたらよけいおそくなるからと思っていいかげん塩梅してストンストンやってかすかな満足を得ようとする自分の心が私には・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・でフぬけとなるよう、塩梅しているところは巧なものである。 男や軍人が書いたのでは陳腐だというので、警察官の女房などにわざわざ「満州里遭難血涙記」を書かせ、公爵近衛文麿の戦争をけしかける論文。今ジェネヴで「泥棒にも三分の理」にさえならぬ図・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・この按排では我々が本意を遂げるのは、いつの事か分らない。事によったらこのまま恨を呑んで道路にのたれ死をするかも知れない。お前はこれまで詞で述べられぬ程の親切を尽してくれたのだから、どうもこの上一しょにいてくれとは云い兼ねる。勿論敵の面体を見・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・かし奥様がどことなく萎れていらしって恍惚なすった御様子は、トント嬉かった昔を忍ぶとでもいいそうで、折ふしお膝の上へ乗せてお連になる若殿さま、これがまた見事に可愛い坊様なのを、ろくろくお愛しもなさらない塩梅、なぜだろうと子供心にも思いました。・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫