・・・なるほどそう云われて見ると、黒々と盛り上った高地の上には、聯隊長始め何人かの将校たちが、やや赤らんだ空を後に、この死地に向う一隊の士卒へ、最後の敬礼を送っていた。「どうだい? 大したものじゃないか? 白襷隊になるのも名誉だな。」「何・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・居留民はそこにおける地位、財産を守ろうとする一致した目標をもってがんばっている。士卒は兵士としての絶対の避くべからざる任務に服している。その間へ、銃をとって絶対に戦わなければならないでもない作家、一面には社と社との激烈な競争によって刺戟され・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・隊伍をなした士卒も避ける。送葬の行列も避ける。この車の軌道を横たわるに会えば、電車の車掌といえども、車をとめて、忍んでその過ぐるを待たざることを得ない。 そしてこの車は一の空車に過ぎぬのである。 わたくしはこの空車の行くにあうごとに・・・ 森鴎外 「空車」
出典:青空文庫