一、伸子は 段々ひきつけられた、p.9「プロレタリアートは時代の先端を壮烈な情熱をもって進んでいる、しかも我々の前には過渡期の影が尚巨体をよこたえている」 一章一章が、青年らしい丹念さでまとめられている。・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・しかし人の話に、壮烈な進撃とは云っても、実は土嚢を翳して匍匐して行くこともあると聞いているのを思い出す。そして多少の興味を殺がれる。自分だってその境に身を置いたら、土嚢を翳して匍匐することは辞せない。しかし壮烈だとか、爽快だとかいう想像は薄・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・扁平な漁場では、銅色の壮烈な太股が、林のように並んでいた。彼らは折からの鰹が着くと飛沫を上げて海の中へ馳け込んだ。子供たちは砂浜で、ぶるぶる慄える海月を攫んで投げつけ合った。舟から樽が、太股が、鮪と鯛と鰹が海の色に輝きながら溌溂と上って来た・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫