・・・造り変える力なのです。」 老人は薔薇の花を投げた。花は手を離れたと思うと、たちまち夕明りに消えてしまった。「なるほど造り変える力ですか? しかしそれはお前さんたちに、限った事ではないでしょう。どこの国でも、――たとえば希臘の神々と云・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・人間性そのものを変えないとすれば、完全なるユウトピアの生まれる筈はない。人間性そのものを変えるとすれば、完全なるユウトピアと思ったものも忽ち不完全に感ぜられてしまう。 危険思想 危険思想とは常識を実行に移そうとする思想で・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・無論、仲間同志のほめ合にしても、やっぱり評価表の事実を、変える訳には行きません。まあ精々、骨を折って、実際価値があるようなものを書くのですな。」「しかし、その測定器の評価が、確かだと云う事は、どうしてきめるのです。」「それは、傑作を・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・は死骸の身に絡った殊にそれが肺結核の患者であったのを、心得ある看護婦でありながら、記念にと謂って強いて貰い受けて来て葛籠の底深く秘め置いたが、菊枝がかねて橘之助贔屓で、番附に記した名ばかり見ても顔色を変える騒を知ってたので、昨夜、不動様の参・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・先生、――「座敷を別に、ここに忍んで、その浮気を見張るんだけれど、廊下などで不意に見附かっては不可いから、容子を変えるんだ。」とそう言って、……いきなり鏡台で、眉を落して、髪も解いて、羽織を脱いでほうり出して、帯もこんなに(なよやかに、頭あ・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・平生顔の色など変える人ではないけれど、今日はさすがに包みかねて、顔に血の気が失せほとんど白蝋のごとき色になった。 自分ひとりで勝手な考えばかりしてる父はおとよの顔色などに気はつかぬ、さすがに母は見咎めた。「おとよ、お前どうかしたのか・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・勧善懲悪の旧旗幟を撞砕した坪内氏の大斧は小説其物の内容に対する世人の見解を多少新たにしたが、文人其者を見る眼を少しも変える事が出来なかった。夫故、国会開設が約束せられて政治休息期に入っていた当時、文学に対する世間の興味は俄に沸湧して、矢野と・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・私は憤慨して、何が時局的に不都合であるか、むしろ人間の頭を一定の型に限定してしまおうとする精神こそ不都合ではないか、しかし言っておくが、髪の型は変えることが出来ても、頭の型まで変えられぬぞと言ってやろうと思ったが、ふと鏡にうつった呉服屋の番・・・ 織田作之助 「髪」
・・・閑な線で、発車するまでの間を、車掌がその辺の子供と巫山戯ていたり、ポールの向きを変えるのに子供達が引張らせてもらったりなどしている。事故などは少いでしょうと訊くと、いやこれで案外多いのです。往来を走っているのは割合い少いものですが、など車掌・・・ 梶井基次郎 「路上」
・・・生活を変えるとは言っても、加藤さんに家へ来てもらって、今までどおりに質素に暮らして行こうというだけのことです。 期日は十一月の三日ということに先方とも打ち合わせました。当日は星が岡の茶寮でも借り受け、先方の親戚二、三人と西丸さん、吉村さ・・・ 島崎藤村 「再婚について」
出典:青空文庫