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・・・バルザックの逞しいあらくれの手を忘れ、こそこそと小河で手をみそいでばかりいて皮膚の弱くなる潔癖は、立小便すべからずの立札にも似て、百七十一も変名を持ったスタンダールなどが現れたら、気絶してしまうほどの弱い心臓を持ちながら、冷水摩擦で赤くした・・・
織田作之助
「可能性の文学」
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・・・再び狼の爪につかまれぬためには、変名して手紙を受とったり、住居を晦したり、辛酸をなめた。母親とベルニィ夫人の助けで一時は凌いだが、バルザックはこの破綻で「単に貧しい男となったのみではない。」「苦しい借金を免れ、母から借りた金を返すために生涯・・・
宮本百合子
「バルザックに対する評価」