・・・同じ誤謬に立脚した変態の俳句などは、自分の皮膚の黄色いことを忘れた日本人のむだな訓練によってゆがめられた心にのみ感興を呼び起こすであろう。 この短詩形の中にはいかなるものが盛られるか。それはもちろん風雅の心をもって臨んだ七情万景であり、・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 人間の生涯には、少なくも母体を離れた後にこのように顕著な肉体的の変態があるとは思われない。しかしある程度の不連続な生理的変化がある時期に起る事もよく知れ渡った事実である。蚕や蛇が外皮を脱ぎ捨てるのに相当するほど目立った外見上の変化はな・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・或は他の例を以てするならば元来変態心理と正常な心理とは連続的でありますから人類は須く瘋癲病院を解放するか或はみんな瘋癲病院に入らなければいけないと斯うなるのであります。この変てこな議論が一見菜食にだけ適用するように思われるのはそれは思う人が・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・うんと陳腐な所謂変態心理と性慾を、最も拙劣な筋書きで見せてる。 ――レヴューは? ――ソヴェト式レヴューがあるよ。 ――オペレットは? ――ある。でも、やっぱりソヴェト式だ。 ――……ついでだから、どうだい一つ見て来た芝・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・深尾氏はお定が変態的であると評されている点が決して変態的でないと主張しておられるのであるが、私が膝を叩いて感じいったことは、私はお定のようになりたくってねえと云わしめた言葉の根底には、世間の大部分の男は「お定の対手になって見たかったと云って・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・彼らはただドストイェフスキイに変態心理の作家を見るにとどまるだろう。彼が著しく「神」のことに執着する所などはほとんど無意味に感ぜられるに相違ない。しかし実際はこの作家ほど深く確実に人間のあらゆる性情をつかんでいる者は、たぐいまれなのである。・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・という言葉で言い現わしたのは、病的、変態的、頽廃的な印象である。伎楽面的な美を標準にして見れば、能面はまさにこのような印象を与えるのである。この点については自分は今でも異存がない。 しかし能面は伎楽面と様式を異にする。能面の美を明白に見・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・吾人の四綱領は武士道の真髄でありソシアリティの変態であろう。しかれどもこの美名の下に隠れたる「美ならざる」者ははたして存在せざるか。向陵の歴史は栄あるものであろう。しかれどもこの影に潜める悪習慣を見よ! 吾人はあえて一二の例を取る。そもそも・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫