・・・――それは、煙管の地金を全然変更して、坊主共の欲しがらないようなものにする事である。が、その地金を何にするかと云う問題になると、岩田と上木とで、互に意見を異にした。 岩田は君公の体面上銀より卑しい金属を用いるのは、異なものであると云う。・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・白き鞭をもって示して曰く、変更の議罷成らぬ、御身等、我が処女を何と思う、海老茶ではないのだと。 木像、神あるなり。神なけれども霊あって来り憑る。山深く、里幽に、堂宇廃頽して、いよいよ活けるがごとくしかるなり。明治四十四年六月・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・とにかく二十八年間同じ精力を持続し、少しもタルミなく日程を追って最初の立案を(多少の変更あるいは寄道設計通りに完成終結したというは余り聞かない――というよりは古今に例のない芸術的労作であろう。無論、芸術というは蟻が塔を積むように長い歳月を重・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・それがどうしたのか、出発の前日に変更されてしまった。彼の中隊が、橇でなく徒歩でやって来ていたならば、彼も、今頃、どこで自分の骨を見も知らぬ犬にしゃぶられているか分らないのだ。 徒歩で深い雪の中へ行けば、それは、死に行くようなものだ。・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・敷地は、第一回の測量地点から、第二回の測量地へ変更されることになったのだ。 はじめの測量には、所有地が敷地に這入っていたのに、今度は、はずれている。そんな地主や自作農もあった。はじめは、四カ所もはいっていたのに、今度は、一坪もふれていな・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ しかしこういう程度の尺度やパースペクティーヴの変更はむしろ平凡なことであって、ある度まではわれわれの目の網膜のスクリーンの上で行なわれている技巧の延長のようなものであり、従ってわれわれに新しく教うるところは僅少であるが、真に驚異の念を・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・題目は朝鮮の河川の流域変更に関するものだそうである。なるほど、新聞記事のどこにも、当人自身がその論文をよんだとはっきり書いてはなかったかもしれない。河川の流域を変ずれば、なるほど黄海に落ちるはずの水を日本海に入れる事も可能である。しかし、新・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・はマッハによって批評されたのみならず、輓近相対性原理の研究と共にさらに多くの変更を余儀なくされた。この原理の発展以来「時」の観念はよほど進化して来たが、それはやはり幾何学の「時」の範囲内での進歩である。 吾人の直感する「時」の観念に随伴・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・によって周囲の媒質の「酸度」に変更を生じたためもあろうし、また一般文化の進歩のために思想の内容が豊富複雑になったために一種の「滲透圧」が増大して伝統詩形の外膜を押し広げようとする力が働いたためもあるかもしれない。 とにかく、こういうふう・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・力やエネルギーの概念がどうなったところで、建築や土木工事の設計書に変更を要するような心配はない。 アインシュタインおよびミンコフスキーの理論のすぐれた点と貴重なゆえんはそんな安直な事ではないらしい。時と空間に関する吾人の狭いとらわれたご・・・ 寺田寅彦 「春六題」
出典:青空文庫