・・・透かして見れば帳場があって、その奥から、大土間の内側を丸太で劃った――――その劃の外側を廻って、右の権ちゃん……めくら縞の筒袖を懐手で突張って、狸より膃肭臍に似て、ニタニタと顕われた。廓の美人で顔がきく。この権ちゃんが顕われると、外土間に出・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ くもは、わがままかってに、私の内側にも、また外側にも網を張りました。もとより私に、一言の断りもいたしません。それほど、みんなは私をばかにしたのです。 そのうちに、夏もゆき、秋がきました。秋も末になると、ある日のこと、ペンキ屋がきて・・・ 小川未明 「煙突と柳」
・・・この外側からはわからない内側の心持の世界というものが、限りない深さと広がりとのあるもので、それが信仰の世界である。そしてそれは、さぐってもさぐっても限りないもので、だんだんと究めて行くにしたがって深い、細かい味がわかってくるのである。 ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・――壁の外側に取りつけた戸袋に、二枚の戸を閉めると丁度いゝだけの隙があった。そこへ敷布団から例のものを出して、二寸ほどの隙間に手をつまらせないように、ものさしで押しこんだ。戸袋の奥へ突きあたるまで深く押しこんだ。「これで一と安心!」一瞬・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・また、田舎にある自分の家は、外側に壁土をつけないものばかりだと、自慢した。また、伝うる所によれば、ホメロスは、唯一人しか下僕を持ったことがなかった。プラトンは三人。ストワ派の頭ゼノンは、唯の一人も持たなかった。 チベリウス・グラックスは・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・しかも、こんどのシャツには蝶々の翅のような大きい襟がついていて、その襟を、夏の開襟シャツの襟を背広の上衣の襟の外側に出してかぶせているのと、そっくり同じ様式で、着物の襟の外側にひっぱり出し、着物の襟に覆いかぶせているのです。なんだか、よだれ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・ スイスあたりの山のホテルを想わせるような帝国ホテルは外側から観賞しただけで梓川の小橋を渡り対岸の温泉ホテルという宿屋に泊った。新築別館の二階の一室に落ちついた頃は小雨が一時止んで空が少し明るくなった。 窓際の籐椅子に腰かけて、正面・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ちょっと外側から見ると恐ろしく窮屈そうに見えるような天地に居て、そうして実は、最も自由に天馬のごとく飛翔しているような人も稀にはあるようであり、一方ではまた、最も自由な大海に住みながら、求めて一塊の岩礁に膠着して常に不自由を喞つ人も稀にはあ・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・たとえばビーカーをアルコールランプで下から熱すると水蒸気が出てそれがビーカーの外側にあたって冷却され、水粒がビーカーに附着する。これを見て児童はどうして出来るかと質問したときに、教師がそれをいいかげんに答えるのはいうまでもなく悪いが、これを・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・面は急激に冷えるが内部は急には冷えない、それが徐々に冷える間は、岩質中に含まれたガス体が外部の圧力の減った結果として次第に泡沫となって遊離して来る、従って内部が次第に海綿状に粗鬆になると同時に膨張して外側の固結した皮殻に深い亀裂を生じたので・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
出典:青空文庫