・・・彼のカルテュアは多方面で、しかもそれ/″\に理解が行き届いている。が、菊池が兄貴らしい心もちを起させるのは、主として彼の人間の出来上っている結果だろうと思う。ではその人間とはどんなものだと云うと、一口に説明する事は困難だが、苦労人と云う語の・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・そう云う所を知って見ると、豊島が比較的多方面な生活上の趣味を持っているのも不思議はない。 だから何も豊島は「何時でも秋の中にいる」訳ではない。反って実は秋が豊島の中にいるのである。 芥川竜之介 「豊島与志雄氏の事」
・・・梅水の主人は趣味が遍く、客が八方に広いから、多方面の芸術家、画家、彫刻家、医、文、法、理工の学士、博士、俳優、いずれの道にも、知名の人物が少くない。揃った事は、婦人科、小児科、歯科もある。申しおくれました、作家、劇作家も勿論ある。そこで、こ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 鴎外の博覧強記は誰も知らぬものはないが、学術書だろうが、通俗書だろうが、手当り任せに極めて多方面に渉って集めもし読みもした。或る時尋ねると、極細い真書きで精々と写し物をしているので、何を写しているかと訊くと、その頃地学雑誌に連掲中・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 近代の文学者の中で、ニイチェほど大きく、且つ多方面に影響をあたへたものはない。思想方面では、レーニンやトロツキイの共産主義者を始め、それの対蹠であるファッショや強権主義者等までが、多少みな間接にニイチェの影響を蒙つて居る。文学の方・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・私はだんだん読んで行くうちに、非常に感興を覚え、この種の科学的研究は、新しく、そして科学的な社会観の上に立って芸術を創造し、そういう創造力を開発してゆくために、もっともっと多方面にわたって活溌になされてゆかなければならないと信じるようになっ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 彼女は、惨めな乞食に、一銭投げ与える年寄りは、永い年月に向って彼に定職を与える者より、無智な愛情の所有者であることは知っていただろう、けれども、人間にとって、最も多方面な発動の可能を持つ愛情は、それが力強くあればあるほど、無智にも傾き・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・然し一方には江戸文学の伝統をその多方面な才能とともに一身に集めたような魯文が存在し、昔ながらの戯作者気質を誇示し、開化と文化を茶化しつつあった。このような形で発端を示している新しいものと旧いものとの相剋錯綜は、日本文学の今日迄に流派と流派と・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・そして、本当に婦人たちの自発的な気もちから生れた婦人団体というものが日本に殆どないために、新しい日本建設の一つの要素として多方面の接触をもつようになって来た。 この事情は、クラブの社会的な存在意義というものを、いつとはなしくっきりと彫り・・・ 宮本百合子 「三つの民主主義」
・・・そういう科学に立った調査から示される図表は、同じ図表でも形の方からきめてかかっているのでないから、現実的で動的で、その業績が多方面に役立てられている。 ラジオについて宣伝という面が画時代的に重視されているとすれば、聴きての生活から反映す・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
出典:青空文庫