・・・B そうすると歌の前途はなかなか多望なことになるなあ。A 人は歌の形は小さくて不便だというが、おれは小さいから却って便利だと思っている。そうじゃないか。人は誰でも、その時が過ぎてしまえば間もなく忘れるような、乃至は長く忘れずにいるに・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・最も多望であった脚本創作のことなどは、ほとんど全く手がつかなかったと言ってもいい。 学校の方は一同僚の取りなしでうまく納まったという報告に接したが、質物の取り返しにはここしばらく原稿を大車輪になって働かなければならない。 僕は自分の・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・実に多望と謂つべしであります。 しかし植林の効果は単に木材の収穫に止まりません。第一にその善き感化を蒙りたるものはユトランドの気候でありました。樹木のなき土地は熱しやすくして冷めやすくあります。ゆえにダルガスの植林以前においてはユトラン・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・だから日本の文壇は前途多望、大いに楽観すべき現象に充ちていると思います。 そこで今云った通り新参の私のあとから、すでに四五人の新進作家が出るくらいだから、そのあとからもまた出て来るに違ない。現に出つつあるんでしょう。また未来に出ようとし・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・ことに雑誌なんかの上で大人が一二度小才のきいた文章が出してあるとすぐ「前途多望の天才」とかなんとか云う尊称がたてまつられる。そんな人にかぎってその投書の一年とつづいた事がなく、その次からの文がきっと前よりも劣って居る。「天才のねうちが下った・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫