・・・ なぜなれば、児童等の現実に於ける生活は多様だからです。そして、真の児童のための読物は、彼等の生活と関係あるものでなければならないからです。 知識と経験の調和のみが、いゝ童話を、そして、また、いゝ児童の読物を作るのであります。そ・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ 私のこの稿は専門の倫理学者になる青年のためではなく、一般に人間教養としての倫理学研究のためであるが、人間の倫理的疑問及びその解決法は人と所と時とによって多様であるように見えても、自ら、きまった、共通なものである。まずその概観を得るがい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・しかし現実の恋愛は実に多様な場合があり、陥りやすき人間の弱点があり、社会的不備から生ずる同情すべき散文的側面があり、必ずしも一概にはいえないさまざまの事情があるものである。 ことに私の上来のいましめはイデアリストに現実的心得を説くよりも・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・後者に関してはその種類が多様であるのと、技術知の習得に関するので、特に挙げてあげつらうことができない。ただこの場合において一、二の注意を述べるなら、職能に関する読書はその部門の全般にわたる鳥瞰が欠くべからざるものであるが、そのあいだにもおの・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・何故なら恋の色彩は多様でもいのちと粋とは逸してしまうからだ。真に恋愛を味わうものとは恋のいのちと粋との中心に没入する者だ。そこでは鐘の音が鳴っている。それは宗教である。享楽ではない。 清姫の前には鐘があった。お七の前には火があった。そし・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・もちろん一見灰色で単純に見えて、その実、複雑で多様な、なか/\腹の底を割って見せない農民の生活を十分、委曲をつくして表現し得ているとはいえない。 ブルジョア文学になると、もっと農民を、ママ子扱いにしている。島崎藤村の「千曲川のスケッチ」・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・こういう意味では音楽自身よりもこうした音楽映画は数等複雑多様なディメンションをもった芸術であると思われる。 四 その夜の真心 前説と同様な意味で、この映画はたとえ何十回競馬を見物に行っても味わうことの六かしいと思わ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ただこの映画に現われる多数多様のアジア人種の顔つきや表情は、注意して見ているとなかなか興味がある。毛皮市場や祭礼の群衆の中にわれわれの親兄弟や朋友のと同じ血が流れている事を感じさせられ、われわれの遠い祖先と大陸との交渉についての大きな疑問を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これは、映画がまだ芸術として若い芸術であるという事が一つ、それから映画の成立にいろいろなテクニカルな要項が付帯しているために、それに関する知識の程度によって批評家の種類と段階の差別が多様になるという事がもう一つの原因になるのではないかという・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・可能な道は無限に多様であって、その中の一つを指定すべき与件は一つもないのである。 これと反対に、現世で予測のできない事がらが逆転映画の世界では確定的になるから妙である。たとえば一本の鉛筆を垂直に机上に立てて手を離せば鉛筆は倒れるが、それ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
出典:青空文庫