一 夫れ女子は男子に等しく生れて父母に養育せらるゝの約束なれば、其成長に至るまで両親の責任軽からずと知る可し。多産又は病身の母なれば乳母を雇うも母体衛生の為めに止むを得ざれども、成る可くば実母の乳を以て養う可し。母体平生の健・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・近頃早婚と多産とが奨励されはじめている。それはなんとなく賑やかで楽しげな声である。だが、それを実践したい心は溢れているとして、全体の人数の何割の若い職業婦人たちが、それぞれの勤め先で結婚と分娩とを公然の条件として認められているであろうか。共・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・これは一面子供多産の奨励のようなものだ」といっているのである。読売新聞の時評はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手当を出すので子供を生む。家族手当をやめよ、賃銀を労働者一人の能率払いにせよ、と書いている。『中央公論』は、仄聞すると・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ しかしながら、散文精神の発足にやはり時代のかげが落ちていて、芸術が現実へ働きかけてゆく面からそれが云われず、どちらかと云うと、現実の反映としての小説をより見たことは、散文精神が、市井風俗小説を多産するに至ったことで裏づけられている。・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ この年六月十八日にマクシム・ゴーリキイがその多彩多産な六十八年の生涯をモスクで終ったことは、世界に少なからぬ感動をつたえた。ゴーリキイをしてしかく人類的な光彩ある活動と、才能の満開とを可能ならしめた社会の文化的条件を想い、翻ってその招・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・現実を発展の過程において理解し、描き、かぎりない発展の可能をもつ民主主義の前途に期待する意味で、私たちは進歩的なリアリズムの創作方法に、十分の多様性と多産な成果とを求めるのである。 芸術の根蔕はリアリズムである。どんな幻想的創作でさえも・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・「失業と多産のためにほとんど飢餓にひんしているこの階級の親たちにとっては全く天来の福音である」と新聞の記事はかきたてている。 プロレタリアートの姉妹たち! われわれはこの記事から、プロレタリアの女として、どんな「天来の福音」を感じる・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・ これには流石のブランデスも些か驚歎して、「純粋のスラヴ人で、感受性に鋭く、智的に多産でありながら、殆ど意志の力を欠いていた」ツルゲーネフであったから「彼は自分の生活に美しい支配者を得て幸であった」と云っている。 今日の目で見れば、・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 十年間の多産豊饒な漱石の文学作品を見渡すと、ごく大づかみないいかたではあるが、藤尾風な趣味的・衒学的女は初期の作品に現れただけで姿を消し、藤尾の性格の中から、ゴーチェの「アントニイとクレオパトラ」を愛読するロマンティックな色彩をぬき去・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 結婚資金の貸し出しや多産のひとに奨励金の渡されることや、それもいいことだろうけれど、今日の社会で母という立場が女に負わしている種々雑多な条件について、女は自分からもう一歩あゆみ出た日頃の分別を持っていなければならないのではなかろうか。・・・ 宮本百合子 「若い母親」
出典:青空文庫