・・・ 人類の発展の足どりは、実に多岐多難である。名状し難い献身、堅忍、労作、巨大な客観的な見とおしとそれを支えるに足る人間情熱の総量の上に、徐々に推しすすめられて来ている。決して反復されることない個人の全生涯の運命と歴史の運命とは、ここに於・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・当時の文学のありようから、真の新進、精鋭は見出し難く、受賞の範囲は、それぞれの作家の若々しい未来を鼓舞し祝福する方向に赴かず、寧ろ、多難な文学の道をこれまでの何年間か努力をつづけて今日に到っているという作家への、慰労賞めいたものとなった。文・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 一つの着眼であると思われたが、作家は何の力によって成長展開するかという前途多難な課題の内からみると、あの三通りのそれぞれ一風変った名の持主たちの出現と存在とは、さらに一歩を深めて、それぞれの作家がその精神のうちにもって生きている人及び・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なるもの等の趣向に一縷接したところを含み、その好評に於ても、プロレタリア文学の成長の道の多岐と多難さとを思わしめる時代的なものがあった・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そこには、先ず勤労人として生活しながら、文学を愛好する面では消費的で、従来の文学青年的であるというような撞著が克服されねばならず、その過程は歴史的にいかに多岐、多難で忍耐を要することであろうか。ゴーリキイの生涯を通観してもそのことは分明なの・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 女性の経済についての知識が、一尾の魚を幾とおりに料理出来るか、という範囲よりも、広められ深められなければ、今日の多難さの裡で、つまりはこれ迄の女の一番卑屈な思いつきでばかり、現実の推移を追っかけていなくてはならないことになるだろうと思・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 多岐多難な現代の日本文学が、今日と明日とに向って自身の最大の課題としなければならないのは何であろうか。ひとくちに要約すれば、それは文学に於ける人間の再生の課題であろうと思う。人間は文学の世界において、物に従属させられる人間から、物の主・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・わたしたちはこの多難な社会生活の間で自分の爪先がどっちを向いているかということを知ることが大切である。文学に大切な個性ということも、つまりは社会と、そこに存在する階級と自分とはどういう関係にあるかということを理解し、その関係にどう積極的に働・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ プロレタリア文学の多難な発展過程から見て、過去の「ナルプ」の活動にあった弱点から押しても、現在文学的野望に燃える多数の作家たちが、プロレタリア文学における独特な長所を発見しようと志し、同時に、芸術作品の構成の豊富さ、諧調における明暗の・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・その一ねじりは作者にとってそれから後をプラン通りに運ぶ便宜上役立ってはいたが、あるがままの現実に面してそれを掘り下げて行こうというには、主題が現実の多難性の前で捩れて、裏がえしとなって、読者の心が求めているものとは背中合わせな本質となってい・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
出典:青空文庫