・・・寧ろ廬山の峯々のように、種々の立ち場から鑑賞され得る多面性を具えているのであろう。 古典 古典の作者の幸福なる所以は兎に角彼等の死んでいることである。 又 我我の――或は諸君の幸福なる所以も兎に角彼等・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・の先頭に立つものではない、強い性格者であり認識の促進者たるべき人の多面性は語学知識の広い事ではなくて、むしろそんなものの記憶のために偏頗に頭脳を使わないで、頭の中を開放しておく事にある、と云っている。「人間は『鋭敏に反応する』ように教育・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そうしてその単純明白なモチーフが非常に多面的立体的に取り扱われているために、同じものの繰り返しが少しの倦怠を感ぜしめないのみならず、一歩一歩と高調する戯曲的内容を導いて最後の最頂点に達するまでに観客の注意の弛緩を許さないのであろう。 こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・彼は恐ろしく多面的な忙しい頭脳をもっていた人である。時としては彼の神経は千筋に分裂して、そのすべての末端がいら立って、とても落着いた心持になれなかったのではあるまいか。そういう時に彼は音楽の醸し出す天上界の雰囲気に包まれて、それで始めて心の・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 作家が評家に呈出する答案はかくのごとく多種多面である。評家は中学の教師のごとく部門をわけて採点するかまたは一人で物理、数学、地理、歴史の智識を兼ねなければならぬ。今の評家は後者である。いやしくも評家であって、専門の分岐せぬ今の世に立つ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・節理なら多面節理、これを節理と云うわけにはいかない。裂罅だ。やっぱり裂け目でいいんだ。壺穴のいいのがなくて困るな。少し細長いけれどもこれで説明しようか。elongatedpot-hole〔ここがどうしてこう掘れるかわかりますか。石ころ、礫が・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ソヴェト同盟に関する場合、社会主義建設の事業は現代大きい摩擦のうちに行われている厳粛な人類的事業であり、多面的であり、当然矛盾ももっている。正直な、客観的観察とその報告しか、そこにある現実をつたえにくい。小説化すことは、危険をもっている。ソ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・で読者は直接農民委員会、または部落委員会の組織を試みたプロレタリア作家を見たのであるが、プロレタリア作家のオルグ的活動の面はさらに多面であり、作家としての技術を組織的活動に直接活用し得る面も数多くある。それはサークル活動である。「樹のない村・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・死にかた、或は死なせかたの諸相が、その時代のものとしてこの一篇には実にまざまざと多面的に取上げられている。人間同士の友誼が、対手の死なせかたに表現されなければならなかった当時のモラルも柄本又七郎の行動で表徴されているし、悪意ある方策によって・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
今日家庭というものを考える私たちの心持は、おのずから多面複雑だと思う。 家庭は今日大事とされている。貯蓄のことも、生めよ、殖せよということも、モラル粛正も、専ら家庭内の実行にかけられている。 昨夜の夕刊には、大蔵省・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
出典:青空文庫